2021年04月10日

軍手とボール盤

 私の祖父は左手の薬指が欠損しておりました。木工・鉄工を家業にしていまして、軍手をしたままボール盤作業をして左手を巻き込まれ、薬指の中ほどからを失ったそうです。戦前の話で、おかげで戦争(太平洋戦争)に行かずに済んだということで、祖父は笑いながら話しておりましたが、高専に入って自分でボール盤作業をするようになると、これはなかなかどうして、笑える話ではないな、と思ったものです。

 ボール盤作業をする人の何割が工業高校や高専、あるいは職業訓練校などで作業を習っているのでしょうか。私は高専でボール盤作業を習ったので、まあ、上手くはないですが、ひどいことはしないというぐらいにはなっていると思いますが、やはり町工場や現場作業などを渡り歩く感じで仕事を覚えた方は、ときどき危ないことをされますよね。

 だいたい見ていて「危ないな」と思うのは、ワークを工作機械(ボール盤)のテーブルに固定していない場合です。固定するのが面倒だからなのか、そもそもボール盤のテーブルが小さすぎてワークが固定できないからなのか、そのときどきで違いますが、固定しないので、ワークを手で持ったり抱えたりして、穴開け作業をするわけです。

 そして、だいたいワークを手に持つために軍手や作業手袋をしているわけです。そのままだとワーク(だいたい鋼材)のエッジで手を切ったりするので。そして、固定していないのでワークがぶれたりしてドリルが食い込んでしまい、ワークが手から離れてまわりはじめます。

 運がよければワークに手をはじかれて痛い思いをするくらいで済むわけですが、ここで運が悪いとワークのエッジなどに軍手がひっかかり、指がもっていかれるわけです。私の祖父はこのパターンだったのでしょう。(祖父は私が小学2年生のときに亡くなりましたので、私に対して具体的な話はしていませんでした)

 このように、ボール盤作業と軍手の組合せで何が怖いかというと、「ボール盤作業時に軍手を着用している」ことではなく、「ボール盤作業時にテーブルにワークを固定していない」ことなのです。(手で持っているのは“固定”とは言いません)

 ボール盤作業において、軍手あるいは作業手袋を着用していけないということはないと思います。

 町工場でのボール盤作業ではワークを30分に50個も手で取り替えるようなことは日常です。そして加工数は50個です。自動機でやったら価格は合いません。ワークはエッジが残った切り出したままの鋼材で切断用の切削液にまみれていてプラボックスに詰まれています。これを素手でボール盤にセットするのは手をケガするリスクが高すぎます。そして、いちいち手袋を着脱していたら、これも単価が合いません。

   ※われわれの日常はそういった設備費償却済み
    家庭内手工業・低単価の作業がベースになって
    維持されているので、無人化すべきとかいう議論は
    ナシでお願いします。50万円ぐらいでできたら
    いいんですけどね。ほんと。

 さて、ボール盤作業というかドリルでの穴加工においていちばんキツいのは「ワークにドリルがあたりはじめるところ」と「ドリルがワークを抜けるところ」、つまり負荷が大きく変わるところです。こういった大きく負荷が変わるポイントでドリルがワークに食い込みやすいのです。

 ところが、食い込んでもワークが固定されていて回らなければ、そのまま加工してしまえるか、悪くてもドリルがチャック部分で滑りますのでケガはしません。なので、ボール盤作業でもワークがテーブルに固定されていれば、別に軍手や作業手袋を着用していても問題ないというわけです。

   ※固定されていれば、と書きましたが、面取りドリルでの
    作業であれば、ワークがテーブルを真上から見て
    時計回りに回転せず、また浮き上がらないような
    仕掛けがあれば、同じような効果が期待できます。
    よくやるのはボルトと平鋼に穴をあけたブロック2つで
    ストッパを構成するやつですね。
    そもそも面取りドリルは食い込みが起きないような切れ刃に
    なっているので、この程度で十分だと思います。

   ※そういえばボール盤のモーターが過負荷で止まるのは
    あまり見たことがないですね。ベルトが滑るので
    そこまでいけないんでしょうけども。
    そう考えるとよく出来てますよね、ボール盤。

 ついでにボール盤作業時の保護具でいえば、眼鏡はしておいたほうがいいと思います。こちらは視力矯正用でも伊達眼鏡でもいいですが、とにかく切屑は熱いし鋭いし、眼だけは保護するようにしておいてもらいたいと思います。昨今の卓上ボール盤は簡易ガードなんかがついてるのもありますが、あれはどこまで効くのかな、というのはあります。

 あと半袖短パンだと切屑で火傷しますから、綿などの燃えにくい長袖の作業服がいいのではないかと思います。まあ、ここは痛みを受け入れて半袖短パンを選ぶのも好みの問題だと私は思ってますけど、自分は絶対に長袖作業服ですね。けっこう痛いですし。

 で、ここまで書いて思ったんですが、私のところにはロボドリルという高級なボール盤があるんですよね。これを使うときに保護具はどうするのがいいかですが、ぶっちゃけ、ワークのハンドリングがいちばん危険な作業なので、ここをクリアできるなら保護具なんていらんという話です。それこそ軍手だけで、ポロシャツ+ハーフパンツなんてのでもいい。実際、夏の休日に回すときには私はそんな格好でやってますし。

 おそらく海外工場のYouTube動画でそういった週末におうちでビール飲んでそうな格好をよく見かけるのは、工作機械側が危険な部位を外にむき出しにしていない、という点にあるんじゃないかと思います。日本でも新興の加工専門業だとそういう工場を見かけますよね。

 ISO12100みたいな話に逸れていってしまいそうなので戻しますが、「ボール盤作業時には軍手(あるいは作業手袋)を絶対に着用してはならない」みたいな硬直した考え方をしていると本当に危険なところを見落としてしまったり、経済的にムリなことを要求し出したりするわけです。

   ※Twitterなどで本人達がアセスメントしたうえで
    選択しているに対して、硬直したルールをあてはめて
    苦言を呈したり炎上させたりしてるのを見ると、
    現場にいないのによくそこまで言えるなあ、みたいなことを
    思ったりしますし、そういう硬直したルールが正義みたいな
    スタンスこそが次の労働災害につながるのは、それこそ
    失敗事例でたくさん見てきたんじゃないかと思うのですが。

 なにが危険なのかをきちんと見極めるには、作業の諸力学的本質をつかまないといけませんから簡単なことではないのですが、機械工学を履修し町工場を横目で見て自分も加工する立場から、軍手とボール盤について思うところを書いてみました。

ご安全に!

posted by kirikuzudo at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記