2012年06月16日

軌道輸送サービスの国際競争、についての所感・ベータ版


先日Twitterで、フォロワーさんからこのような質問を受けました。

「スペースXのドラゴンが成功したことで民間企業の宇宙産業への幕開けだ!!とみんな喜んでいますがドラゴンのペイはHTVの半分、コストは半分以下、しかも帰ってこれる。これって日本は安易に喜べない、取って代わられてしまいそうな気がします大丈夫でしょうか?」

その場でひととおりの回答をしてみたのですが、しっくりこなかったので、ちょっとここらでまとめも兼ねて、エントリを書いてみようと思います。

まず、質問の中にあった「民間企業の宇宙産業への幕開け」という言葉。
この「民間」という言葉には気をつける必要があると思います。
SpaceX社に対してNASAから資金が出ているところからすると、内実はともかくとして、極端な話をしてしまえば、受発注形態はJAXAが三菱重工業に対して行っているのとかわらない、という考え方もできます。

アメリカではこれまでNASAがロケットの打ち上げを主導してきました。もちろん、製造はユナイテッド・ローンチ・アライアンスがやっていましたが、米国では民間企業が全プロセスを主導してのロケット製造と打ち上げははじめてになります。

日本では長らく三菱重工業が主契約企業としてロケット製造と打ち上げを担当しています。もちろん契約上ではJAXAへの引き渡しが打ち上げ前段階でありますが、打ち上げ運用に関しても三菱重工業と傘下の企業群(コスモテックなどなど)が行ってきました。

「民間企業の宇宙産業への幕開け」というのであれば、既に日本では1980年代から民間企業が宇宙産業を担当してきたのです。
この点を考慮に入れたうえで話をしなければなりません。

おそらくマスメディア上でのキャッチコピーとして
「民間企業の宇宙産業への幕開け」
という言葉が出ていたのだと想像しますが、
短期的に、これは単なる「契約の線引き」の話だと捉えておくとよいと思います。

しかしながら、長期的には、三菱重工業のライバルとなる企業がさらにもう一者現れたという、認識が正しいと思います。

これは裏を返せば、アメリカの宇宙政策が
「あれ?実は日本のやり方のほうがよくね?」
という認識をし、同じスタンスを取ったともいえるのではないか、とも考えられます。
ただし、アメリカの宇宙政策ではSpaceX社以外も発注対象としていくつか存在します。
しかもユナイテッド・ローンチ・アライアンスは現役です。
このあたりはアメリカの層の分厚さを感じますね。

さて。話題が質問にあった
「日本は安易に喜べない、取って代わられてしまいそうな気がする」
になってきましたので、そちらへ移ります。
まずは各ロケットの軌道投入能力を並べてみましょう。

ロケットの軌道投入能力比較表(別ウィンドウ)

現時点でH-llBのライバルはどちらかといえばアリアン5なのではないかと思います。兵站から考えると、種子島からは年間にそう何発も打ち上げられませんし、Hシリーズは大きめのペイロードに特化していく方向かと思います。

ただし、種子島は運送経路に難があるため、
現在より大きい輸送系を射場まで運搬することができません。
よって、ここがHシリーズのネックになると思います。

兵站面から見れば、いまのHシリーズは官需でわりと手一杯なところもあるので、軌道輸送サービスとしての展開は難しいように思います。

私見ですが、緯度によるΔVを考えたとしても、和歌山および北海道の太平洋岸に射場があると、格段に競争力が上がるのではないかと考えています。
緯度が選択できるということは、投入軌道の軌道傾斜角変更に必要な燃料を削減できるというおまけもありますし。

いずれにせよ、まだ軌道輸送系は市場原理ががっつり働くには未成熟なマーケットだと思います。
しかしながら、将来的に不安があるのはおっしゃられるとおりだと思います。きちんと見ていませんが、SpaceXは広報もうまかったみたいですし。
SpaceXに限らず、ローレンジの打ち上げサービスから初めて、次第に現在のH-llBやアリアン5のクラスまで手をのばしてくる展開は充分に考えられます。
それらを前提とすると、現時点では輸送系の需要となる軌道上サービスを考え出し提案できることのほうが、狭い市場の取り合いをするより重要ではないかと思っています。需要を待つのではなく、マーケットを作り上げる、という感覚が必要だと思うのです。

いま不足しているのは「宇宙でしかできないことを我々はワンストップでやりますよ」という垂直統合事業だと思います。
垂直統合が必要なのは、クリステンセン的な言葉で言えば、軌道上サービスはまだ「十分ではない世界」にいるからです。

「宇宙でしかできないこと」をはっきりさせられないと、地上の代替サービスの競合には勝てませんから、これはとても難しい問題です。低重力実験などでも「宇宙は値段高いから実験条件を工夫して落下塔のXsec以内に終わるようにしたよ」というのがライバルになってきます。

無重力指輪交換実験なんてする人もいるくらいですからね。そういえばあれも三菱重工業系のサービスでしたっけ?

話は変わりますが、SpaceXのすごいところは自社開発扱いのコンポーネントが多いことですね。
まず調達リスクと調達コストがかなり抑えられます。次に、問題が起きた際の解決にかかる時間が短くなります。さらにコンポーネントを最終サービスのデザインにあわせてカスタマイズしやすくなります。垂直統合に向けての体制という意味では、SpaceXは三菱重工業の数歩先をいっていると考えてもよいと思います。
posted by kirikuzudo at 06:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記
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