2019年07月07日

手書き製図の実習とCADの時代

※機械系の話です。基板CADや土木建築CAD/BIMやCAE/CAMの話はしていません。

<手書き製図の実習>

 学生さんや若い技術者さんがTwitterで「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」というようなことをTweetしてたりするのをたまに見かけます。

 いまどきCAD使わないなんて、というのは、たしかになあ、という気持ちもあります。

 一方で、一度手書きをやってると違うよ、という同年代以上の方の意見にも、身体的動作としての筆記で図面を描くという体験には意味があるかもしれない、という気持ちにもなります。


<自分が学生だった頃>

 1997年から2002年まで高専機械科で学生をしていたので、3D-CADの普及初期にかぶっていますが、工場実習でマイナーな2D-CAD+等高線CAMを12時間ちょい触ったぐらいで、在学中は3D-CADを使ったことはありませんでした。ちょっと特殊なのは小学生のときにMS-DOS上で動くコマンドベース2D-CADを実家の工場で触らせてもらったことがあるくらいでしょうか。

 つまり学生時代、設計と製図はすべて紙の上でやっていました。A2のケント紙をひとまわり大きいサイズの製図板の上にマスキングテープで固定して、T定規と三角定規で平行線や補助線を引いていき、コンパスを使って長さを出していきます。

 製図をしながら、「なんでCADじゃないんや」というのは当時の僕も思っていました。


<自分が仕事で使っているCAD>

 高専を出て就職してから7年間はネットワークSEをやっていたのでその間はCADなんてまったく使いませんでした。CADを使い始めたのは実家に戻って家業の手伝いはじめてからです。

 家業の事務所では「EASY DRAW」という2D-CADソフトを使っていたのですが、いまひとつ馴染めなかったので、自腹で「頭脳RAPID」という2D-CADソフトを購入しました。しばらくしてから事務所のCADは3ライセンスともすべて「AutoCAD LT」に入れ替えましたが、自分はいまも手に馴染んだ「頭脳RAPID」を使っています。

 *EASY DRAW https://www.andor.co.jp/products/easydraw/price.html
 *頭脳RAPID https://www.photron.co.jp/products/2d-cad/rapid19/
 *AutoCAD LT https://www.autodesk.co.jp/products/autocad-lt/overview

 とはいうものの、いまどき3Dぐらい使えないとね、という気持ちもあるにはあって、Inventor Professionalのサブスクリプションも契約しています。とはいえ、仕事に使えるレベルにはまだなっていないのですが。


<なんのために図面を作るのか>

 なんのために図面を作るのか、というと、

  「ユーザーや顧客に承認を得るため(営業的)」

  「製作するものが物理的・論理的な整合性を持っているか客観的に確認するため(品質管理的)」

  「組立や部品加工で作業する人に何をしたらいいかを伝えるため(製造管理的)」

  「設計の成果物として納品して対価を得るため(ふたたび営業的)」

 の大きく4つに分かれると自分は考えています。

 実際につくる図面だと、自分の場合、下記を2D-CAD(「頭脳RAPID」)で書いています。

 1.ユーザーや顧客から設計の承認を得るための納入仕様図、系統図、構成図

 2.構造を作業者が組み立てるための組立図

 3.部品を製作するための部品図

 4.制御盤を作るための電気回路図、盤組立図

 5.制御盤と制御機器を電気的に接続するための配線図

 図面というのは数日後の自分を含めた第三者とのコミュニケーションツールなので、あとで読んで伝わればどうやって書いてもいいという話もあったりします。

 そういう視点とコンピュータ上に製図板を再現している2D?CADというのは、とても相性がよく、「頭脳RAPID」を愛用している自分も当然そういう視点が強いのだろうな、と自覚はしています。
 (「頭脳RAPID」はドラフター的な操作がすごく馴染むのです)


<2D-CADの限界と設計援護ツールとしての3D-CAD>

 さて、そうはいうものの、製作するものの規模(というか構成要素数)が大きくなると、整合性の確認という点では2D-CADの出力する2D図面は第N角に投影された線の集合でしかないので、怪しくなってきます。3D-CAD(CATIA、Solidworks、Inventorあたり)であれば、要素間の関係がアセンブリ空間上で厳密に定義できますから、物理的な整合性の確認にはもってこいです。先日も2D-CADで書いた図面で作って配管と構造物の干渉をやらかしましたが、こういうのは3D-CADであればアセンブリ時に干渉チェックですぐに気がつくことができます。

 最近の3D-CADパッケージには簡易的な構造FEA機能(Inventorのスイート製品にはNastran簡易版がついてくるようになりました)が含まれていたりしますので、強度や剛性の確認も(どこまで厳密かはさておいて)簡単にできますし、流行りのジェネレーティブデザインなどにも対応していたりします。

 2D-CADは「コンピュータ支援ドラフター」ですが、3D-CADは、まだ進歩の途上ではありますが、「コンピュータ支援設計機」ということが言えると思います。


<アウトプットとして求められるもの>

 本邦限定の話ですが、現在は過渡期なので、図面を承認する立場の人で3Dモデルでの承認に慣れている人や組織はまだ全体の半分にも満たないのではないかと思います。そのため、アウトプットとしては2Dの図面を出力できなければいけません。しかし、それさえできればなんでもいいとも言えます。

 部品を製造する側も過渡期で、低チャージの加工を請け負う人たちはPC操作の能力がないことが多く、やりとりもFAXと電話ベースだったりしますが、一方でPCを使い、5軸加工機と専用CAMをそろえて単価をあげていく加工請負の人たちもいます。自分の組織の仕入先にどちらが多いのか、ということに左右されますが、2D図面を出せればたいていはなんとかなります。

 つまり、まだまだアウトプットとして求められるのは2D図面が多いのです。しかし、アウトプットがプロセスを完全にしばるわけではありません。


<手書きは本質ではない>

 はじめに戻ります。さて、「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」という、かつての自分やいまを生きる学生さんの発言に対して、自分はどう答えるべきでしょうか。製図板やドラフターを使った手書き製図、ドラフター的な2D-CAD、設計支援機能のある3D-CAD、どれを設計製図の実習に使ったらいいのでしょうか。

 自分の経験ベースで恐縮ですが、製図板やドラフターの苦労の大半は「寸法どおりにきれいな線を引く」というところに集約されますので、自分を振り返ってみても、学生のときに安い2D-CADとA2プロッターがあったら、そっちで課題をやっていたと思います。また、学習効果としても製図板とドラフター的な2D-CADに大差はないのではないかと思います。

 (一応、「専用ペンシルで線を引くことで身体的に図面を描いて得られる何か」というのもあったりするのかもしれない、という危惧はちょっとしていたりします。しかし、この危惧というのは自分の苦労した経験が無駄ではなかったと考えたい気持ちから出てはいないか、というところもあるので、ここでは考えないようにします。)

 以上より、「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」という話には大いに頷けるところがあって、ライセンス費用やPC台数やソフト選定の問題がクリアできるなら2D-CADで製図できるようにできたらいいのではないかと思います。

 2D-CADを使うことで、ケント紙と格闘する時間を省略でき、より要素数の多い設計とその製図を行うほうが技術者の養成という点ではいくらか合理的なのではないかと考えます。(ほんと、綺麗に消しゴムかけるのめんどかった)

 ただし、2D-CADはUIがソフトウェアによって大きく異なり、学校での実習という少ない時間では操作技能の習得に終始してしまい、また、違うソフトウェアに触れたときに「学生時代に触っていた物と違う」という心理的障壁を築いてしまうという面も忘れないようにしたほうがいいかとは思います。その点で、手書き製図のUIは究極的にはペンシルと定規と紙に集約されるので、ツール的には最も汎用的であるとは言えます。


<2D-CAD or 3D-CAD>

 話を戻します。では、2D-CADと3D-CAD、どちらで設計製図の実習をしたらよいのでしょうか。 

 3D-CADといきたいところですが、残念ながら、本邦において、ものをつくるプロセスから2D図面が完全に排除できていない以上、2D図面を見て立体的な構造をそこから把握できる能力がなければいけません。

 現状では皮肉なことに、3D-CADで設計だけを業務とする技術者は(結果を自分が知っているので)この能力があまり必要ないのですが、企画と承認をする立場になったり、組立を指揮する立場になると2D図面とにらめっこすることが仕事になります。そして、その能力を3D-CADを使用するだけですべての学生さんが習得できるかどうかという点に、自分は懐疑的です。

 2D-CADあるいは手書きでもいいですが、2D図面を自分で描くということを繰り返さないと自分のような凡人が「2D図面を見て立体的な構造をそこから把握できる能力」を身につけるのは難しいと思います。そして、そういった「イケてないけどやっておくとあとで便利なこと」を半ば強制する環境を用意するのが学校の重要な要素であると思います。

 これは、3D-CADを触るな、という話ではありません。3D-CADは学生さんであれば学生ライセンスで安く(といっても一万円は学生さんには安くないかもしれませんが)契約できますし、Autodesk360は商用利用でなければ学生はフリーということもあるので、自分で勉強することもできます。(A360がCADと言っていいかどうかは議論があるところだとは思います)

(まともなPCを買うお金の問題がでてきますが、)「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」とTwitterで言っちゃうくらい意識が高い学生さんはそういう環境を利用して自分を高めていくとよいかと思います。


<で、結局どうなの?>

 「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってると思いませんか」という質問に対するいまのところの自分の答えは

  「教育機関の予算や制約が許せば2D-CADでいいと思います」
  「いろいろ制約があって2D-CADが導入できないなら、手書き図面にスケール当てて線の太さや線の長さをチェックして書き直しさせるあまり本質的ではない評価はやめたほうがいいと思います」
  「設計製図は設計書の評価を中心にしたほうがいいと思います」

 というところでしょうか。


<仕様書(設計書)、ちゃんと作ろ?>

 「手書きに綺麗に製図することって設計の本質なの?」という点については、手書きが2D-CADや3D-CADに変わっても同じです。(かつての自分のように)要件定義やモデリングをしないままに複雑な構成で綺麗な3Dモデルを作ってくるエンジニアリング会社の技術者さんをたまに見かけますが、図面やモデルを作り始める前に設計の出来の半分は決まっているという気はします。

 設計のアウトプットの代表は図面かもしれませんが、図面から「なんでここをこの形状/寸法/材質にしたのか」という情報を読み取ることは難しいため、「仕様書(あるいは設計書)」が必要になります。

 「SEは仕様書だけ書いてプログラムを外注してるからダメなんだ」的な話をTwitterでよく目にするほど忌み嫌われている感じのある「仕様書」ですが、構成要素数が大きい機械を作るのにはたくさんの人が絡んでくるので、そのたくさんの人たちに図面がなぜそうなったかを納得させるツールとしても、きちんと伝わるように作られた「仕様書」は必要不可欠だと思います。

 いまのところ、10トン以上の物理的実体をともなう複雑な電気機械的構造物はたくさんの人に適切に動いてもらわなければまともに機能するように作ることはできません。その際に、作ろうとするものの形状/寸法/材質のような物理的な指示だけではなく、それらを指定した背景となる考え方を伝えることはとても大切です。(失敗事例DBを眺めていると「背景となる考え方」が消失した状態で起こる失敗がとても多いことがよくわかります)

 また「仕様書」を作ることで要件定義ができ、自然と要求機能/性能の分析につながります。「仕様書」に付属する構成図を作ることはモデリングにも通じます。

 そして、残念ながら高専や工学部の機械系に来てしまったら、だいたい「仕様書を読んだり書いたりしなければいけない」仕事かそれに近い仕事をすることになります。


<仕様書を作れるようになるために>

 自分は機械科卒の人間なので他の学科の話はよくわかりませんが、「仕様書」を作れるようになるためには工学的な数量感覚を持っておくこと、専門科目の知識を卒業後も参照して目の前の要件に適用できる程度には「将来の役に立たなさそうな」講義をちゃんと受けておくこと、というあたりが大切だと思います。

 あとは普通にレポートが通るレベルの日本語を書ければ大丈夫だと思います。


<余談>

 自分の場合、「仕様書」というものの大切さを実感しはじめたのは32歳を過ぎてからだったりします。それから客先の仕様書を写経することをはじめて、自分で(規模は小さいですが)仕様書を起こせるようになったのは本当に最近のことです。

 仕様書(あるいは設計書)を書くのは、要求に対する自分の考え方をすべて晒す行為になるのでなかなかしんどい仕事ではありますが、慣れれば緊張感のある面白い仕事でもあるとは思います。


posted by kirikuzudo at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記
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