2019年06月24日

フェアリング空調の検討(その1)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

※ あてずっぽうの数字ばかりなので、そのへんは生温かくスルーしてください。どちらかといえば検討の流れみたいなものを見る感じでお願いします。


<フェアリング空調の目的>

 フェアリング空調はロケットの組立・地上待機期間において、ペイロード(衛星)が要求する温度・湿度・清浄度を維持するためにフェアリングに対して行われる空気調和操作です。

 スペースワン社のロケットのようにSmallSatを対象とする場合に、衛星側がフェアリング内の温度・湿度・清浄度について要求することがあるかどうかはマーケット的な話でよくわかりませんが、要求があると仮定し、それに対応するフェアリング空調はどのようなものになるか検討してみようと思います。


<フェアリングの有効容積>

 空調を行うには対象の有効容積がわからないといけません。フェアリングには衛星が収納されますので、フェアリング空調の対象となる、フェアリングの有効容積はフェアリングの内容積から衛星の容積を引いたものになります。

 公式リリースによると、スペースワン社のロケットは高度500[km]の太陽同期軌道(Sun-synchronous orbit)に150[kg]の衛星を投入するとのことです。

  ※ https://www.space-one.co.jp/doc/solution.pdf

 NASA Amesの資料、「Small Spacecraft Technology State of the Art」(NASA/TP-2015-216648/REV1)の「Table 2.2. Integrated small spacecraft platform specifications」(page.18)に主なSmallSatプラットフォームの寸法と重量が記載されており、50[kg]で600[mm]角(216[L])あたりが平均的な重量寸法比となっているようです。

  ※ https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/small_spacecraft_technology_state_of_the_art_2015_tagged.pdf

 何も考えずにこれを3倍にして衛星の容積を648[L]とすると、立方体であれば865[mm]角程度になります。スペースワン社の公式リリースに書かれたフェアリング内の衛星包絡域は、直径1150[mm]で円筒部の長さは1000[mm]なので、妥当な数字と考えてよいかと思います。

 フェアリング内の容積は衛星包絡域より若干大きくなりますので、直径1400[mm]、円筒部の長さ1100[mm]、円錐部の長さ1500[mm]の円筒と円錐で近似して、2462[L]とします。

 以上より、フェアリングの有効容積は 2462 - 648 = 1814[L] となります。


<ベントホールの有効断面積>

 高度が上昇するにつれて大気の圧力は減少していきます。一方、密閉されたフェアリングは、厳密にシールされて気密を保っているわけではないですが、巨視的には密閉容器と考えてもよい状態になっています。

 このため、フェアリングにベントホールがないままロケットを打ち上げると、フェアリング分離高度までフェアリング内部はほぼ地上の大気圧(101[kPa(A)]前後)を保ったままとなり、フェアリング分離時にフェアリング内部は100[kPa(A)]から0.25[kPa(A)]まで急激に減圧されることになってしまいます。

 ※ イプシロン4号機のフェアリング分離はリフトオフ後151[sec]、123[km]となっており、メジャーな大気モデルの「U.S. Standard Atomosphere (1976)」では、気圧は0.25[kPa]程度となっています。

 ※ https://en.wikipedia.org/wiki/U.S._Standard_Atmosphere

 急減圧はペイロードである衛星に対して不要な荷重を与える(注1)ことになるため、フェアリング分離時にはフェアリング内部の気圧は外部とほぼ同程度になっている必要があります。フェアリング分離時の内外の気圧差を取り除くため、フェアリング分離までにゆるやかにフェアリング内部の気圧を減少させるための仕組みがベントホールになります。

 注1. 衛星構体は立方体形状で密閉度は低いですが、衛星構体外部が急激に減圧された場合、衛星構体内部に残った気体の圧力との差圧で衛星構体に大きな荷重が発生します。また、急減圧でMLIブランケットが剥離する等の事例もあります。

 「Epsilon User's Manual」によると、イプシロンロケットの場合はフェアリング内静圧の最大瞬間減圧率が5[kPa/s]以下となっています。同資料にはフェアリング内の圧力履歴と減圧率履歴の例が載っています。(page.61の図4.5.1-7および図4.5.1-8)

 ※ http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/EpsilonUsersManual.pdf

 地上でフェアリング空調を実施している際には、フェアリング空調アンビリカルポートから入った空気がベントホールから大気へと出ていくことで、フェアリング内の空調が維持されています。このため、ベントホールの有効断面積がフェアリング空調を検討するための大きな要素となります。

 最大減圧率の5[kPa/s]時にベントホールがチョークしていると考えて、ベントホールの有効断面積を推定します。

 最大減圧率とフェアリング有効容積から1秒間あたりにフェアリング内の質量がどれだけ減少すればよいかわかります。適当に数字を置いて試算してみましょう。

  フェアリング有効容積:1.814[m3]
  減圧前後のフェアリング内空気温度:0[℃]
  減圧前後のフェアリング内静圧:101.3[kPa] -> 96.3[kPa]
  減圧前後のフェアリング内空気密度:1.293[kg/m3] -> 1.23[kg/m3]

 密度差と有効容積を掛け算すれば質量減少率がわかり、この例では0.114[kg/s]となります。

 密閉されたフェアリングのベントホールから空気が減圧された外部に吹き出している状態は「貯気槽からの気体の吹き出し」モデルとして近似できます。ベントホールがチョークしている前提ですので、単位断面積あたりの吹き出し質量流量は下記の式で求められます。

  単位断面積あたりの質量流量:(ρ(*)・V(*)) [kg/(s・m2)]
  貯気槽内の気体密度:ρ(0) [kg/m3]
  貯気槽内の気体音速:a(0) [m/s]
  貯気槽内の気体温度:T(0) [K]
  一般ガス定数:R [J/(K・mol)] = 8.314
  気体の比熱比:κ
  気体の分子量:M [kg/mol]

  音速の式

   a(0) = sqrt(κ・M・T/R)

  単位断面積あたりの質量流量の式(チョーク時)

   (ρ(*)・V(*)) = ρ(0)・a(0)・(2/(κ+1))^((κ+1)/(2κ-2))

 空気の分子量M = 0.02896[kg/mol]、貯気槽内の気体密度ρ(0) = 1.293[kg/m3]、比熱比κ = 1.4を上の式に代入すると、音速は 331.25[m/s] となり、単位断面積あたりの質量流量は 247.86[kg/(s・m2)] となります。

 最大減圧率時の質量減少率は 0.114[kg/s] ですので、必要な断面積は以下となります。

  0.114[kg/s] / 247.86[kg/(s・m2)] = 0.00045993[m2] = 459.93[mm2]

 断面積からベントホールの直径は 24.2[mm] となりますが、ベントホールは流れが絞られるため、5%ほど直径を大きくして、25.4[mm] = 1[inch] とします。

 ※追記(2019/06/28) ------------------------------

  検討した次の日に気がついたのですが、ベントホールは少なくともフェアリングの下側4箇所にないと流れが偏ってよろしくない話になります。なので、1箇所に25.4[mm]のベントホールとしましたが、4箇所に12.7[mm]のベントホールという形態に変更します。

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<送風量>

 「Epsilon User's Manual」によると、イプシロンロケットの場合、フェアリング空調時のフェアリング内清浄度クラスは「5000」となっています。(page.68の表4.5.3.1)

 この清浄度クラス表記は「0.5[um]の浮遊粒子が1[ft^3]に含まれる数」で定義されるFed.Std.209Dのものです。JIS B 9920による空気清浄度クラス表記では「クラス5」が相当すると考えます。

 フェアリングをクリーンルームとして捉えたとき、クリーンルームの分類としては「一方向流方式」となります。この方式では送風量をクリーンルーム内気流速度と流れに直交する床面積の積として求めるのが一般的ですが、フェアリング空調の対象となるのは主に円筒部となるので、この円筒部の軸方向の気流速度を基準に送風量を推定します。

 クリーンルームのISO規格である、ISO14644-4には参考値として、気流速度 0.2〜0.5[m/s] との記載があり、一般に0.5[m/s]程度を採用することが多いため、ここでもこの数値を採用します。フェアリングの直径は 1400[mm] なので、円筒部の断面積は1.5386[m2] です。気流速度を0.5[m/s]とすると、送風量は 0.769[m3/s] = 46.158[m3/min] となります。

 ※ このあたりは『クリーンルームの計画と設計 第3版』を参照しています。


 ※追記(2019/06/28) ------------------------------

  検討した次の日に気がついたのですが、断面積459[mm2]程度の穴から46[m3/min]もの体積流量の空気を流すのはどう考えてもおかしいので、ここでは設計指標(デザインドライバ)をフェアリング内流速ではなく、フェアリング内外許容差圧とベントホール径として考えてみたいと思います。

 フェアリング内外差圧はフライト時に最大で40[kPa(d)]程度になると考えられますが、ここでは地上待機時の許容差圧を20[kPa(d)](つまりフェアリング内気圧は121[kPa(A)])として考えます。

 密閉されたフェアリングが加圧され、ベントホールから空気が外部に吹き出している状態は、これもまた「貯気槽からの気体の吹き出し」モデルとして近似できます。ベントホールがチョークしていないので、単位断面積あたりの吹き出し質量流量は下記の式で求められます。

  単位断面積あたりの質量流量:(ρ(*)・V(*)) [kg/(s・m2)]
  貯気槽内の気体密度:ρ(0) [kg/m3]
  貯気槽内の気体音速:a(0) [m/s]
  貯気槽内の気体温度:T(0) [K]
  貯気槽内の気体圧力:P(0) [kPa(A)]
  貯気槽外の気体圧力:P(b) [kPa(A)]
  一般ガス定数:R [J/(K・mol)] = 8.314
  気体の比熱比:κ
  気体の分子量:M [kg/mol]

  音速の式

   a(0) = sqrt(κ・M・T/R)

  単位断面積あたりの質量流量の式(非チョーク時)

   (ρ(*)・V(*)) = ρ(0)・a(0)・A・B・C

   A = sqrt(2κ/(κ-1))
   B = (P(b)/P(0))^(1/κ)
   C = sqrt(1-(P(b)/P(0))^((κ-1)/κ))

 貯気槽内の気体圧力を121.3[kPa]として、空気の分子量M = 0.02896[kg/mol]、貯気槽内の気体密度ρ(0) = 1.549[kg/m3]、比熱比κ = 1.4を上の式に代入すると、音速は 331.25[m/s] となり、単位断面積あたりの質量流量は 267.37[kg/(s・m2)] となります。

ベントホールの有効断面積 459.93[mm2] と 貯気槽内の気体密度 1.549[kg/m3] から、地上待機時に貯気槽内の気体圧力が121.3[kPa]となった状態での体積流量は、79.4[L/sec] = 4.76[m3/min] となります。これを送風量とします。


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来月は配管・ダクト・送風機あたりの選定について触れたいと思います。
posted by kirikuzudo at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記
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