2020年02月24日

ボルト締結体の検討(その2)


<1.おさらい>

前回の「ボルト締結体の検討(その1)」では下記の内容を確認しました。

1.軸力と締付けトルクの関係
2.ボルトねじ部の応力と応力基準
3.ばね定数、内外力比と外力の作用による軸力変化

まず「1.」では軸力と締付けトルクには摩擦係数とねじピッチを変数とする関係があることを確認しました。

次に「2.」でボルトねじ部に発生するミーゼス応力を引張荷重によるものとねじり荷重によるものから求め、それが強度区分により決まる降伏応力内であることを確認しました。

さらに「3.」でボルトと被締結物のばね定数を求め、ばね定数から内外力比を決定し、外力が作用した場合にボルトの軸力がどれだけ変化するかを確認しました。


<2.内外力比を修正する>

さて、前回は内外力比をそのまま使って外力からボルトの軸力変化を求めていました。実はこれは大胆な省略を行った方法です。被締結物のどこに外力がかかるかという検討を省略していました。



省略すると、ボルト/ナットの座面でボルトの軸中心の位置(図のB点)に引張側の外力がかかっている状態になります。

しかし実際のボルト締結体において、ボルト軸中心の座面位置(図のB点)に外力がかかることはまずありません。図のようなボルト締結体であれば外力の作用位置はボルト/ナットの座面より内側で荷重作用の軸方向位置(図のA点)になります。

被締結物が剛体(荷重により変形しないもの)であれば、外力がA点でもB点でも差はありませんが、被締結物は荷重により弾性変形します。図の例であれば破線のように荷重でボルトを中心に板が反る形で変形するはずです。

ここで内外力比はボルトと被締結物の外力による弾性変形(ばね定数)を考慮して定めるものだということを思い出してください。

そして前回、ばね定数(内外力比)を求めるのにこの荷重作用位置の違いによる弾性変形(=図の破線の変形)は考慮されていませんでした。実際のボルト締結体を検討する場合は、これを修正する必要があります。

そこで下記のように「外力の作用位置を考慮していない内外力比」に「修正係数(Cc/Cpt)」を掛けることで「外力の作用位置を考慮した内外力比」に修正できます。

 <Before> ΔF = ( Cb / (Cb + Cc) )・ Qa

 <after> ΔF = ( Cb / (Cb + Cc) )・(Cc/Cpt)・ Qa

 ΔF : 軸力の変化分[N]
 Qa : 外力[N]
 (Cb/(Cb+Cc)) : 内外力比
 Cb : ボルトのばね定数[kN/mm]
 Cc : 被締結物のばね定数[kN/mm]

 (Cc/Cpt) : 修正係数 ←NEW!


修正係数(Cc/Cpt)はボルト締結体の形式によって採用するモデルがかわり、いまだ定式化されていないものも多いですが、いくつかの形式に対しては実験結果と近い値を得られる式があります。それらの式については実例で確認していきたいと思います。


<3.修正係数のある場合とない場合の実例>

実際のボルト/ナットと被締結物をおいてみましょう。六角ボルトと六角ナットはメートル並目ねじ M8、強度区分はボルトが8.8でナットは8Tとします(最近は3価ホワイト処理がお気に入り)。被締結物は外径20[mm]の円形で板厚16.0[mm]の鋼板2枚の締結でいきます。ボルトの長さは40[mm]とします。作用する外力は5000[N]で鋼板の円筒外周面中央に作用するとしましょう。




まずボルトのばね定数Cbです。
ボルトの非ねじ部径としてd=6.6[mm]を使用します。ヤング率はEb,Em=200[GPa]。非ねじ部は0[mm]でねじ部は40[mm]、ねじ部の有効断面積は径を6.6[mm]として計算します。

[VDI2230によるボルトのばね定数 Cb]

 1/Cb = 1/Eb * ( Lsk/An + La1/An + Ls/Ad3 + 0.5d/Ad3 )
  + 0.4d/(Em・An)

 1/Cb = 0.005 * ( 0.0772 + 0 + 1.1698 + 0.0965 ) + 0.005 * ( 0.0772 )
 Cb = 140.78[kN/mm]

 Cb : ばね定数[kN/mm]
 Eb : ボルト材質のヤング率[GPa]
 Lsk : ボルト頭部の等価長さ[mm]
  ※Lsk = 0.4d(六角穴付ボルトの場合)
 La1 : ボルト非ねじ部の長さ[mm]
 An : ボルト非ねじ部の断面積[mm^2]
 Ls : ボルトねじ部の長さ[mm]
 Ad3 : ボルトねじ部の有効断面積[mm^2]
 d : ボルト非ねじ部の径[mm]
 Em : ナット材質のヤング率[GPa]


次に被締結物のばね定数です。

[VDI2230による被締結物のばね定数 Cc]

 Dc = (Ec/Lg)・(π/4)
  ・[( Do^2 - Dh^2 ) + Do・Lg・{ (x + 1)^2 - 1 }]

 x = [ Lg・Do / ( Lg + Do )^2 ]^0.333

 x = [ 32 x 13 / ( 32 + 13 )^2 ]^0.333 = 0.590
 Cc = (200/32) x (3.14/4) x [(169 - 73.96) + 13 x 32 x 1.5281]
  = 3585.14[kN/mm]

 Cc : ばね定数[kN/mm]
 Ec : 被締結物のヤング率[GPa]
 Lg : 被締結物の厚さ[mm]
 Do : ボルト座面径[mm]
 Dh : ボルト穴径[mm]


さらにここで修正係数を求めておきましょう。今回のようにボルト1本で円筒を締結し、円筒の外周部に外力が作用する場合の簡易式は下記になります。

[内外力比の修正係数(ボルト1本で円筒を締結する場合の簡易式)]

 (Cc/Cpt) = A・exp{ B・(Dex / Dh) }

 A = 0.642 x (32/8.6)^2 - 4.858 x (32/8.6) + 10.71
  = 1.5224

 B = -0.0778 x (32/8.6)^2 + 0.739 x (32/8.6) - 2.64
  = -0.9812

 (Cc/Cpt) = 1.5224・exp{ -0.9812 * (22/8.6) }
 (Cc/Cpt) = 0.1554

 A : 係数A = { 0.642(Lf/Dh)^2-4.858(Lf/Dh)+10.71}
 B : 係数B = {-0.0778(Lf/Dh)^2+0.739(Lf/Dh)-2.64}
 Dex : ボルト軸直角方向の外力の作用直径[mm]
 Dh : ボルト穴径[mm]
 Lf : 被締結物の板厚[mm]

 ※係数A,Bは「ボルト軸直角方向の外力の作用位置」が
  「被締結物の板厚方向の中央」である場合のものになります。
  板厚が大きい場合は係数が変わってきますので
  参考資料のP132あたりを参照してください。

繰り返しになりますが、修正係数を求める式はボルト締結体の形式、つまり採用するモデルによって異なります。上の簡易式はボルト1本で円筒を締結するようなモデルでしか使えないことを忘れないようにしてください。あと簡易式なので精度は微妙だと思います。


[修正係数のない場合の外力による軸力変化]

 ΔF = ( Cb / (Cb + Cc) )・ Qa

 ΔF = ( 140.78 / (140.787 + 3585.14) * 5000
   = 188.91[N]

 ΔF : 軸力の変化分[N]
 Qa : 外力[N]
 (Cb/(Cb+Cc)) : 内外力比
 Cb : ボルトのばね定数[kN/mm]
 Cc : 被締結物のばね定数[kN/mm]


[修正係数がある場合の外力による軸力変化]

 ΔF = ( Cb / (Cb + Cc) )・(Cc/Cpt)・ Qa

 ΔF = ( 140.78 / (140.78 + 3585.14) * (0.1554) * 5000
   = 29.36[N]

 ΔF : 軸力の変化分[N]
 Qa : 外力[N]
 (Cb/(Cb+Cc)) : 内外力比
 Cb : ボルトのばね定数[kN/mm]
 Cc : 被締結物のばね定数[kN/mm]

 (Cc/Cpt) : 修正係数 ←NEW!


修正係数を出した段階でわかっていましたが、修正係数を使った場合、軸力変化は桁が変わるほど小さくなります。

これは極端な例ですが、場合によっては修正係数の有無で内外力比が大きく変わることが確認できたのではないかと思います。


<4.ボルトにかからない荷重はどこへ消えたのか?>

極端な例でしたが、5000[N]のうち、ボルトの軸力変化に寄与したのは29[N]だけでした。では残りの4971[N]はどこへ消えたのでしょうか。これは外力のかからない初期締付け状態で被締結物の接触面に働いていた圧縮力を減らすために使われます。

先ほどの例でいけば、M8ボルトの標準軸力は14060[N]で、外力がはたらいていない状態では被締結物同士の接触面を圧縮するためにこの軸力は使われています。接触面は圧縮応力が発生しており、Φ22[mm]なので圧縮応力は37[MPa]程度になります。

ここで外力が作用し、4971[N]が圧縮力を減らすために使われると、標準軸力による初期締付け状態の圧縮力14060[N]が9089[N]まで減少します。これにともない、圧縮応力も24[MPa]程度まで減少します。

この被締結物の接触面に作用する圧縮応力はボルト/ナットのゆるみに係わっており、例えば軸直角方向の振動がある状態で圧縮応力がある値を下回ると、ゆるみがはじまる原因になったりします。

また、流体容器や流体配管のフランジ部では圧縮応力が内部の流体圧力に係数をかけた値を下回ると、内部の流体が漏洩することにつながります。

内外力比に修正係数を掛けないと、ボルトの軸力変化を大きく見積もることになり、ボルトは安全側での計算になりますが、逆に締結物接触面の圧縮力減少量は小さく見積もられることになって危険側での計算になります。

ただし、修正係数の厳密な算出は難しく、いまだ定式化されていない状態ですので、設計実務上では修正係数を使用せずに内外力比を計算し、危険側となっている圧縮力減少量に対してM.S.(安全率,Magine of Safety)を設けるのが現実的ではないかと思います。



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(その2)はこのあたりまでにします。
内外力比の話が終わったので、次からは管フランジ締結体の実例で話を展開していこうかと思います。


※参考文献

 『新版ねじ締結ガイドブック』
 http://jfri.jp/publicate/


 『トラブルを未然に防ぐ ねじ設計法と保全対策』
 https://www.amazon.co.jp/dp/4526072583/


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2020年02月22日

圧力タンクの法的根拠などについて(その1)


「一匹の亡霊が日本を徘徊している。コンプライアンス(法令遵守)という亡霊が。」みたいな昨今ですが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

検定を受けていない圧力タンクも最近は見かけなくなりましたが、ここで圧力タンクの法的根拠を確認してみようと思います。

 ※この記事で圧力タンクは空気あるいは窒素やアルゴン等の不活性ガスを貯蔵する容器として考えています。

圧力容器の法的な根拠は下記の4つになります。

・労働安全衛生法
・高圧ガス保安法
・電気事業法
・ガス事業法

このなかで電気事業法は発電所の、ガス事業法はガス供給に関連する圧力容器の話なので割愛します。

今回は労働安全衛生法の面から圧力タンクを見てみます。


<労働安全衛生法および関連法規での圧力容器の位置づけ>

まずは労働安全衛生法のほうから見ていきたいと思います。労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)自体には圧力容器に関する具体的な記述はありませんが、同法における「厚生労働省令で定める特定機械等」が圧力容器に該当します。

圧力容器についての具体的な記述は下記の省令が該当します。

「ボイラー及び圧力容器安全規則」
 (昭和四十七年労働省令第三十三号)
 (令和元年五月七日改正)


<圧力容器の定義>

同法の第二条に書かれているとおり、圧力容器は「労働安全衛生法施行令」(昭和四十七年政令第三百十八号)の第一条で下記のように定義されています。

--------------
 ・第一種圧力容器(小型圧力容器は除く)
   ・蒸気や熱媒で固体または液体を加熱する容器で、容器内の圧力が大気圧を超えるもの
   ・容器内における化学反応、原子核反応で蒸気が発生する容器で容器内の圧力が大気圧を超えるもの
   ・容器内の液体成分を分離するために液体を加熱して蒸気を発生させる容器で容器内の圧力が大気圧を超えるもの
   ・大気圧における沸点を超える温度の液体をその内部に保有する容器

 ・小型圧力容器
   ・第一種圧力容器で下記を満たすもの
     ・0.1[MPaG]以下で使用される容器で、内容積が200[L]以下のもの
     ・0.1[MPaG]以下で使用される容器で、胴径500[mm]以下かつ全長1000[mm]以下のもの
     ・容器の最高使用圧力A[MPa]と内容積B[m^3]の積 A x B が 0.02以下のもの

 ・第二種圧力容器
   ・0.2[MPaG]以上の気体を内部に保有する容器で第一種圧力容器以外のもの
     ・内容積が40[L]以上の容器
     ・胴径200[mm]以下かつ全長1000[mm]以上の容器
--------------

第一種圧力容器はプラントにおける反応塔や蒸留塔、液化ガスタンクなどが該当します。そのため、圧力タンクであれば第二種圧力容器だと考えればよいかと思います。

以降は第二種圧力容器に話を絞ります。

  ※第二種圧力容器の定義では
   内容積が40[L]以上となっているので、
   ホームセンター等で入手できる安価なコンプレッサーの
   タンク(だいたい30[L]ぐらい)は除外されます。
   でも自主定期点検はしたほうがいいと思います。


<圧力容器安全規則における第二種圧力容器への要求>

定義を確認したので、「ボイラー及び圧力容器安全規則」に戻りましょう。第二種圧力容器に関する記述は第八十四条以降になり、以下の項目があります。

 ・検定
 ・安全弁の調整
 ・圧力計の防護
 ・定期自主検査

「検定」は検定の要求になっています。この労働安全衛生法 第四十四条第二項の検定を指します。有名なところでは下記の協会の個別検定が該当します。

 一般社団法人日本ボイラ協会 − 個別検定
 https://www.bcsa.or.jp/kensa/cat5/

 ※圧力容器は「個別検定を受けるべき機械等」として
  労働安全衛生法施行令第十四条四項に指示されています。

「安全弁の調整」は最高使用圧力以下で安全弁が作動するよう調整することを要求しています。これは安全弁の取付要求でもあります。安全弁は下記のようなものになります。

 株式会社ヨシタケ 安全弁 AL-150
 http://www.yoshitake.co.jp/prod/category/product.php?id=1030001


「圧力計の防護」は圧力計が凍結あるいは80[℃]以上にならない措置を要求しています。これも圧力計の取付要求で、下記のようなブルドン管の圧力計が想定されています。

 長野計器株式会社 圧力計 AC20、AC10、AC15
 http://products.naganokeiki.co.jp/product/2/3/4/1722.html

 ブルドン管の指示針は凍結したり高温になると正しい値を示さなくなることがあるので防護措置はこれを避けるためのものです。


「定期自主検査」は1年以内ごとに1回の自主検査を要求しています。自主検査では

 ・本体の損傷の有無
 ・締付けボルトの摩耗の有無
 ・管および弁の損傷の有無

を行います。ここで異常が見つかった場合は補修等の措置が必要になります。


<設計と製造>

第二種圧力容器の設計はJIS B 8265:2017およびJIS B 8267:2015に基づいて行います。製造には資格要求がありませんが、一般的には溶接作業があります。
設計計算書に記載した溶接方法については日本溶接協会の溶接技能者資格を有する作業者が行うべきではあります。また、継手の信頼性が要求される大型/高圧の第二種圧力容器の溶接は、普通ボイラー溶接士の資格所有者が行うのがよいかと思います。

 日本溶接協会 − 溶接技能者資格について
 http://www.jwes.or.jp/mt/shi_ki/wo/archives/04/


<個別検定への対応>

個別検定については下記のページが詳しいです。

 一般社団法人日本ボイラ協会 − 個別検定申請の流れ
 https://www.jbanet.or.jp/examination/individual/exams/

図面と設計計算書に対して事前設計審査があり、それでOKが出ると日程を決めて水圧検査・外観検査・材料検査の協会検定員立会検査があります。

水圧検査は最高使用圧力の1.5倍の水圧で行います。材料検査は材料証明書(ミルシート)で確認することになります。

ここで特に問題が見られなければ検定は終了となり、数週間後に検定機関の「合格済」印と検定番号が押された検定証が届きます。


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次回は高圧ガス保安法の面から圧力タンクを見てみようと思います。


posted by kirikuzudo at 15:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2020年02月11日

ボルト締結体の検討(その1)


ばね座金ってあんまし意味ないよね、の話から転じて、少しボルト締結体の検討をしてみたいと思います。といっても、検討の流れを追うだけです。式の導出とか解説とかは参考資料を読んでもらうとして、というやつです。また、細かい数字は丸めたり大胆に省略したりしてるので、真面目な検討するときは参考資料とかVDI2230とかを使ってきっかりやってください。

ここでは下の図のようなボルトとナットによる締結体を前提にしています。ボルトとナットはメートル並目ねじ M8 とし、t6.0の圧延鋼板2枚の締結で検討していきたいと思います。ボルトはSCM435製の強度区分10.9の六角穴付ボルトとし、ナットはS45C(H)の強度区分8T品(8.8相当)とします






<1.軸力と締付けトルクの関係>

トルクレンチでボルトの締付けを管理する話はよく聞くと思います。ですが、締付けトルクとボルトにかかる軸力はそのまま対応しているわけではありません。締付けトルクとボルトにかかる軸力の関係は下記の式で表現されます。

 Ts = F・(μs・d・secα' + P/6.28 )

 Ts : 締付けトルク[N・m]
 F : 軸力[N]
 μs : ねじ面の摩擦係数
 d : ボルトの有効径[m]
 α' : フランク角
  ※並目メートルねじではフランク角が30[deg]
  ※sec(30[deg]) = 1.1547
 P : ねじピッチ[m]

この式から同じ軸力でも、
 ・ピッチが大きい
 ・有効径が大きい
 ・摩擦係数が大きい
ほうが締付けトルクは大きくなります。括弧内をまとめて「トルク係数」と呼ぶこともあります。


さて、今回の検討例にあてはめてみましょう。

メートル並目ねじM8で、標準軸力はボルト・ナットが8Tのため1.8T系列となるので、F=14060[N]となります。
 ※標準軸力は下記の技術資料を参照しました。

 東日製作所 ダウンロード 技術資料
 https://www.tohnichi.co.jp/download_services

ねじ面の摩擦係数はモリブデングリスを使って0.1とします。
 ※実際にはモリブデングリスでは摩擦家数は0.09〜0.12とばらつきます

ボルトの有効径は7.19[mm]とし、ねじピッチはM8並目なので1.25[mm]です。

以上より、締付けトルクTs=14.5[N・m]となります。
(無潤滑だと摩擦係数が0.2程度になり、締付けトルクは26.1[N・m]程度になります)


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<2.ねじ部の応力>

ねじ部にかかる応力は
・ボルトが長手方向に引っ張られる引張応力
・ねじ面および座面の摩擦に起因する、ボルトのねじりから発生するせん断応力
の2つにわけられます。
(今回はボルトに曲げモーメントがかかっていないと仮定して話をします。)

引張応力は下記の式で表されます。

 σf = F / As

 σf : 引張応力[MPa]
 F : 軸力[N]
 As : ボルトの引張有効断面積[mm^2]
  ※今回はAsは谷底径の断面積の90%で近似します

また、ねじりによるせん断応力は欠きの式で表されます。

 τt = 16・Ts / (6.28 x ds^3)

 τt : せん断応力[MPa]
 Ts : 締付けトルク[N・mm]
 ds : ボルトの谷底径[mm]
  ※単位に注意です。
  ※締付けトルクは[1]の式で軸力に換算できます。


さて、今回の検討例にあてはめてみましょう。

M8並目のボルト谷径を6.6[mm]、前項から締付けトルクTs=14.5[N・m]、軸力F=14060[N]となっていますので、上の式を使って、引張応力σf=411[MPa]、せん断応力τt=129[MPa]となります。



<3.ねじ部の応力基準>

ミーゼス応力が材料の降伏応力に達したときに降伏すると仮定します。材料の降伏基準は条件によって異なりますが、通常のボルトはこれで攻めても問題ないと思います。ボルトのミーゼス応力は引張応力とせん断応力から次の式で求めることができます。

 σeq = (σf ^2 + 3 x τt ^2 ) ^ 0.5

 σeq : ミーゼス応力[MPa]
 σf : 引張応力[MPa]
 τt : せん断応力[MPa]

せん断応力はねじ谷底の径で最大になるため、上の式のσeq はねじ谷底表面が降伏しはじめるミーゼス応力を表しています。(全断面降伏を基準にするともうちょっと緩くなりますが計算がめっちゃめんどいらしいのでやめました)

一般的なSCM435製の六角穴付ボルトは強度区部が10.9で、材料の降伏応力σy = 900[MPa]となります。

一般のトルク法によるボルト締付けでは降伏点の60[%]程度の応力で締め付けることが多く、下記を満たせばボルトを安全な領域で使用できることになります。

 σeq < σy * 0.6

これにより、強度区分10.9の六角穴付ボルトであればσeq < 540[MPa] であれば安全と言えます。


さて、今回の検討例にあてはめてみましょう。

前項で引張応力σf=411[MPa]、せん断応力τt=129[MPa]となっていますので、ここからミーゼス応力σeq = 467[MPa] となります。これは540[MPa]を下回っていますので安全と言えますが、静的な締付けだけの状態ですし、標準軸力はこの状態を元にしていますので、ここまでは検算みたいなものだといえます。



<4.ばね定数>

さて、ここまではボルトとナットで金具を締付けた状態の話をしてきました。ここからこの金具を引きはがす方向に垂直に引張荷重(外力)がかかった話になります。外から金具にかかる荷重なので「外力」といいます。これに対して、ボルトを締結している力を「内力」といいます。

外からかかった引張荷重のどれだけが軸力を増やすことにつながるかを計算するためにはボルトと締結体の変位をからめた不静定問題を解かなければいけません。

 ※不静定問題、めんどいやつです。材料力学の最初の山ですね。
  高専の機械工学科ではこれを落として留年した人は数知れません。

が、先人がそういう面倒がないような方法を確立してくれています。それが「ばね定数」を使って「内外力比」を求める方法です。

以下の式でボルトと被締結物の「ばね定数」を求めます。

[VDI2230によるボルトのばね定数 Cb]

 1/Cb = 1/Eb * ( Lsk/An + La1/An + Ls/Ad3 + 0.5d/Ad3 )
  + 0.4d/(Em・An)

 Cb : ばね定数[kN/mm]
 Eb : ボルト材質のヤング率[GPa]
 Lsk : ボルト頭部の等価長さ[mm]
  ※Lsk = 0.4d(六角穴付ボルトの場合)
 La1 : ボルト非ねじ部の長さ[mm]
 An : ボルト非ねじ部の断面積[mm^2]
 Ls : ボルトねじ部の長さ[mm]
 Ad3 : ボルトねじ部の有効断面積[mm^2]
 d : ボルト非ねじ部の径[mm]
 Em : ナット材質のヤング率[GPa]

※参考資料には「ボルト細径部」の項がありますが、ここでは非ねじ部のある一般的な六角穴付ボルトを対象とするために細径部の長さ=0[mm]として項自体を省いています。


[VDI2230による被締結物のばね定数 Cc]

 Dc = (Ec/Lg)・(π/4)
  ・[( Do^2 - Dh^2 ) + Do・Lg・{ (x + 1)^2 - 1 }]

 x = [ Lg・Do / ( Lg + Do )^2 ]^0.333

 Cc : ばね定数[kN/mm]
 Ec : 被締結物のヤング率[GPa]
 Lg : 被締結物の厚さ[mm]
 Do : ボルト座面径[mm]
 Dh : ボルト穴径[mm]


さて、今回の検討例にあてはめてみましょう。
ボルトとナットはメートル並目ねじ M8 とし、t6.0の圧延鋼板2枚の締結です。
ボルト寸法はM8 x 25Lとして、非ねじ部のない全ねじを使用します。

まずボルトのばね定数Cbです。
ボルトの非ねじ部径としてd=6.6[mm]を使用します。ヤング率はEb,Em=200[GPa]。非ねじ部は0[mm]でねじ部は25[mm]、ねじ部の有効断面積は径を6.6[mm]として計算します。

 1/Cb = 0.005 * ( 0.0772 + 0.7311 + 0.0965 ) + 0.005 * ( 0.0772 )
 Cb = 203.67[kN/mm]

次に被締結物のばね定数です。

 x = [ 12 x 13 / ( 12 + 13 )^2 ]^0.333 = 0.63
 Cc = (200/12) x (3.14/4) x [(169 - 73.96) + 13 x 12 x 1.6569]
  = 4625.17[kN/mm]

以上より、
・ボルトのばね定数 Cb = 203.67[kN/mm]
・被締結物のばね定数 Cc = 4625.17[kN/mm]
となります。



<5.外力の作用>

ばね定数を用いて内外力比から外力が作用した場合の軸力変化を計算できます。ばね定数を使用して外力から軸力変化を求める式は下記になります。

 ΔF = ( Cb / (Cb + Cc) )・ Qa

 ΔF : 軸力の変化分[N]
 Qa : 外力[N]
 (Cb/(Cb+Cc)) : 内外力比
 Cb : ボルトのばね定数[kN/mm]
 Cc : 被締結物のばね定数[kN/mm]

さて、今回の検討例にあてはめてみましょう。
作用する外力は単純にボルト軸の方向への引張で1[kN]とします。

前項から
・ボルトのばね定数 Cb = 203.67[kN/mm]
・被締結物のばね定数 Cc = 4625.17[kN/mm]
なので、

 ΔF = (203.67 / (203.67 + 4625.17) ) * 10000 = 42.18[N]

となり、外力の4.2[%]程度しか軸力は変化しないことがわかります。

このように大きな外力がかかっても被締結物のばね定数が大きければボルトの軸力変化はわずかになります。



<6.ねじ部の応力の再検討>

第2項でねじ部にかかる応力を検討しました。ここで前項の外力による軸力変化を第2項の応力検討に反映します。

外力は単純な引張によるものなので、必要なのは引張応力の再検討だけです。

 σf = F / As

 σf : 引張応力[MPa]
 F : 軸力[N]
 As : ボルトの引張有効断面積[mm^2]
  ※今回はAsは谷底径の断面積の90%で近似します

M8並目のボルト谷径を6.6[mm]、締付けによる標準軸力F=14060[N]、さらに軸力変化ΔF=42[N]となっていますので、上の式を使って、引張応力σf=412[MPa]と更新されます。

1[MPa]しか変わっていないのでこれは完全にセーフですね。



<7.どこまで大きな外力に耐えられるのか>

被締結物を2枚の圧延鋼板t6.0としましたが、これが外力により変形しないと仮定しましょう。(t6.0に10[kN]を入れたらたぶんけっこうな弾性変形を起こします。)

第3項のの検討でミーゼス応力σeq=540[MPa]までは安全という話になっていました。せん断応力τt=129[MPa]は変わらないとして、ミーゼス応力σeq=540[MPa]と置くと、その場合の引張応力は、

 σf = ( σeq^2 - 3 x τt^2 )^0.5 = 492[MPa]

となります。締付けによる軸力での応力は411[MPa]でしたので、差分は81[MPa]あります。有効径の断面積をこれに積算することで、ボルトの軸力変化の許容値がわかります。

 Δf(safe) = 81[MPa] x 34.2[mm^2] = 2770[N]

 Qa = ΔF(safe) / ( Cb / (Cb + Cc) )
  = 2770[N] / (203.67 / (203.67 + 4625.17) ) = 65674[N](6.7[tonf])

被締結物の強度を無視すると、ボルト自体は6.7トンもの外力がかかっても耐えられる計算になります。

まあ、これは単純に引張しか作用しない実験室的な状況で、被締結物の強度を無視した結果ですので、結果として緩すぎるわけですが、M8並目のボルト・ナットは被締結物との関係次第ではずいぶんと大きな荷重を伝達できることがわかります。



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とりあえず(その1)はこのあたりまでにします。
(その2)以降では強度区分が低い場合や被締結物の板厚、あと疲労の話などをできればなあ、とか思います。
(エターしないようがんばります。)


※参考文献

 『トラブルを未然に防ぐ ねじ設計法と保全対策』
 https://www.amazon.co.jp/dp/4526072583/


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アルミ角パイプ同士のねじ締結について

先日、

 「ばね座金はあんまし意味ないよね、という話の
  リンクは定期的に貼っていきたい。」

というTweetをしたら、けっこう遠方までRTされたので、
意外とボルト締結体のベーシックな力学的構成は知られてないんだな、
という気持ちになりました。

ちなみに「ばね座金はあんまし意味ないよね」という話のリンクは下記です。

 「鍋屋バイテック ねじのおはなし 第4話」
  https://www.nbk1560.com/products/specialscrew/nedzicom/topics/04_washer/

まあ、これは鋼ボルトで鋼材を締結する前提での話なので、
鋼ボルトでアルミや樹脂を締結するような場合はまた違う話になるんですよね。

で、ロボコンされていた方から

「角パイプで適正な軸力出せない場合は
 どうするのが答えなんでしょうね?」

というご質問をいただきました。
おそらくアルミの角パイプだろうなあ、ということで、
ちょっとそれについて書いてみます。

アルミ角パイプ同士の締結はこんなものを想定しています。

<図1>


25角とかの細いアルミ角パイプなどでは角パイプのセンタに穴をあけてM6 x 60Lとかのボルトを締めるので、M6の規定軸力 4330[N]を出そうとすると、局部曲げで塑性変形してしまいますし、材料が抜けることもあります。

規定軸力表はこちらからどうぞ。ここの技術資料は教科書級です。

 東日製作所 ダウンロード 技術資料
 https://www.tohnichi.co.jp/download_services


そのため規定軸力を出さずに締めるので、緩み止めとして「ばね座金」を使う、ということになります。

でも、そもそもボルト締結体ってこういうのが基本なんですよね。

<図2>


しかも通常はヤング率が近い材料同士を前提にしているので、図1なんかは本来のボルト締結体の使い方ではないわけです。炭素鋼のヤング率は200[GPa]ぐらい、アルミ合金のヤング率は70[GPa]ぐらいですから。

で、こういう「基本のボルト締結体」を図1のようなところで使えるように変形するとこうなります。(ボルトと金具は炭素鋼を考えています)

<図3>


まあ、ごつくてダサいですよね。重いし。
で、アルミ角パイプもエッジ付近はそこそこの剛性があるので、そこを荷重伝達に使えばいいんじゃないか、ということを考えて、小さくします。

<図4>


角パイプに横穴あけないといけないのが面倒ですが、位置決めに使えると考えればよいトレードだと思います。横穴の径が小さいと角パイプが局所的に塑性変形して軸力が抜けてしまうのがちょっと怖いところですが。

で、アルミ角パイプもエッジ付近はそこそこ剛性あるよな、ということで。

図4の金具は角パイプのウェブにフランジ締結体の軸力を伝達したいという話なので、ウェブの近くにボルト・ナットを配し座面の変形を防ぐ厚ワッシャを使い、ウェブの座屈耐力以下の軸力を与えるようにします。

<図5>


で、ウェブで使っていない部分があるのでそこにも頑張ってもらうために厚ワッシャを長い金具に替えます。すこし重量が増えますが、作業量とトレードオフですね。

<図6>


ただ、図5と図6はM3 x 60Lとかの高アスペクトなボルトを使うか寸切りボルトを切断して使うことになりますし、4つも穴をあけなきゃいけないし、高アスペクトなボルトの曲げを考慮してないので、自分としてはやっぱり図4を推したいですね。

図4は金具つくるのがめんどいかもですが、市販の位置決めピンを使えばボール盤作業だけで済みますし、金具材質を炭素鋼じゃなくアルミ合金にして、普及している卓上CNCフライスを使って作ってもいいと思います。

で、ここまでいろいろと書いてきたわけですけど、角パイプ同士の締結、であれこれ考えるくらいなら自分はこういうの使いますね。25角アルミ角パイプと比べるとちょい重いんだけども。

 「ユキ技研 レコフレーム」
  http://yukilabo.co.jp/leco_shop/

まあアルファフレームとかミスミとかSUS社とかこういう系列のものはいろいろあるので、アルミ角パイプの代替として検討してみてはいかがでしょう。作業効率は段違いです。あと、25角のアングルは板厚t2.0〜t4.0までありますし、これでトラスを組むと場合によっては同じ重量でも全体の剛性があがるので、採用を検討してみるのもいいかもですね。

 「白銅 アルミニウム合金」
  https://www.hakudo.co.jp/product/aluminum/index.html


まあ、自分はロボコンをやったことがないですし、アルミ角パイプを使うのは経験に基づく合理性と必然性があるのだとは思うので、気になった方はきちんと数値を置いてご試算ください。設計においては、数値に基づく用途にあわせた具体性が大事だと思います。


最後に参考文献のご紹介でも。

 『トラブルを未然に防ぐ ねじ設計法と保全対策』
 https://www.amazon.co.jp/dp/4526072583/

 ボルト締結体に必要なことはだいたいこの本に書いてあるのに2500円しかしないという神の紙書籍です。高専や工学部の機械設計法の副読本にしてほしいですね。


 『飛行機の構造設計(その理論とメカニズム)(第1版)』
  http://jaea.theshop.jp/items/1248629

 軽量で信頼性が必要な構造のとっかかりとしてよいし、なんで航空機の構造はそうなっているのか、という「why done it?」が満載でめっちゃ面白いです。ちょっと高いのと入手性があまりよくないのが欠点ですが、航空機の構造以外にも一般に応用できる部分がたくさんあるので、こちらも機械設計法や信頼性工学の副読本にしてほしいです。
posted by kirikuzudo at 14:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記