2019年08月18日

フェアリング空調の検討(その6)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

(その5)を書いた後、知人から「移動発射台で垂直整備で垂直発射の前提で書いてるけど、そもそもそのあたりのトレードオフを検討してなくない?」という指摘がありましたので、今回は脱線しますが、そのあたりを検討してみます。定量的にやるのはしんどいので、定性的な話に終始していますがご勘弁ください。

<ここでトレードオフを検討するもの>

 次の3つになります。

  ・機体整備の方式

  ・発射台の方式

  ・発射の方式

 これだとなにがなんだかわかりませんので、いくつかのロケットを例に挙げてみましょう。

 まずは機体整備の方式について見てみます。例えばH-IIAロケットはVABで垂直に機体を積んで組み立てます。機体整備の方式としては垂直機体整備方式となります。一方、IST社のMOMOは水平状態で機体を組み立てますので、水平整備方式となります。また、ファルコン9は水平状態で衛星の搭載まで行う水平整備方式です。

 次は発射台の方式について見てみます。H-IIAロケットはVABで移動発射台上に機体を積んで組み立てた後に、VABから射座へ移動しますので、発射台の方式としては移動発射台方式となります。N-I、N-II、H-Iロケットでは射座の固定発射台上で組立と機体整備が行われ、また整備棟自体が移動できるようになっていました。これは移動整備棟方式となります。水平整備方式の場合は水平に長い整備棟を移動させるのは利点がないため、移動発射台方式を使用することが多いようです。

 発射の方式について、規模の大きいロケットのほとんどは垂直発射方式になります。ランチャー方式となるのはラムダロケット、ミューロケットあたりになります。


<垂直整備方式 V.S. 水平整備方式>

 垂直整備方式は機体を垂直に立てて組立・整備するので整備棟の軒高さが高くなります。機体の高さに加えて天井クレーンの揚程に余裕を見た軒高さが必要になってきます。また、建物がタワー状になるので、風が強い沿岸部の射場では風圧に対しての考慮が必要になってきます。また、耐震の面でも高さがあると考慮することが多くなるので大変です。扉あるいはシャッターも発射台に載せたロケットがくぐれる高さのものが必要となるため、これも大変です。

 また、垂直整備の苦しい部分としてはクレーンの揚程が大きくなって特注(防爆なのでもともと特注ですが)になり、機体へのアクセスのために昇降できるフロアを細かく用意しなければならない点もあります。場合によっては作業床全体を垂直方向に上下移動できるようにしなければならないこともあります。

 以上のようにあまり利点のなさそうな垂直整備方式ですが、機体の起立装置が不要で、衛星も垂直に搭載でき、整備棟が面積とらない点が優れています。これらが理由で垂直整備方式は本邦に限らず実績の多い方式です。

 水平整備方式は水平方向にロケットを寝かせて組立・整備するため、ロケット組立棟のスパン方向にロケットの全長+起立装置+ジグ+作業余裕の長さが必要になります。しかし鉄骨造であればスパン方向を増やしても建設の難度があがることはありません。

 また、水平整備方式の建物は高さが低いので建築費用が安くなります。通常の工場や倉庫と同様の工法が使えますし、新日鉄住金エンジニアリングの「スタンパッケージR」のような短工期なシステム建築が適用できます。水平整備方式なら寝かせているので、機体直径の3倍程度のクレーン揚程があれば対応できます。

 ジグも高さをとらなくて済むため、組立工程の設計の自由度が高いのも利点です。結合作業は寝かせた円筒の全周に対して行うことになるため、作業性を確保するためのジグが必要ですが、作業床のような大きな構造物を持つ必要もありません。

 水平整備方式は射座あるいは移動発射台に起立装置が必要になります、全段液体のロケットであれば、推進剤を充填する前の質量は全備質量の約10%未満なので、起立装置に要求される性能は低く抑えられます。そのため、ファルコン9やソユーズなど推進剤を起立後に充填する全段液体ロケットに多くみられます。

 逆に大型固体ロケットを射座で起立させる方式があまり見られないのは、固体ロケットが推進剤をあらかじめ充填してから組み立てなければならないというところが大きいのだと思います。(固体を主体にした大型ロケットはそもそもそれほど多くないですが。)


<移動発射台方式 V.S. 移動整備棟方式>

 移動整備棟方式は整備棟が移動しなければいけないので、整備棟の規模が大きくなると移動可能な整備棟を作って運用するのが大変になります。規模としてはH-Iロケット程度までが適正というところではないかと思います。一方、射座から機体を移動させずに済み、着座精度が自然と確保できるのが利点です。また、液体ロケットにおいては推進剤の充填配管を整備棟のある段階で接続しておけるという点も、運用上の大きな利点です。

 発射台を移動する移動発射台方式は発射台が移動するので、推進剤充填配管を発射台が着座した後に結合する作業などが発生します。また、レール移動であれば着座精度は前後方向だけの話になりますが、タイヤ移動タイプでは着座精度を確保するためにいろいろな対応が必要となってきます。


<垂直発射方式 V.S. 傾斜ランチャー方式>

 垂直発射方式は発射方位角によらず、一定の射座配置になるので、地上設備側には優しくなります。また、オープン型のデフレクタではなく煙道を使用できるので、機体やペイロードへの音響振動の面で優しくなります。小型とはいえ商用ペイロードを相手にするならば煙道は使用したいところです。

 一方、垂直発射方式を採用すると発射直後から機体の制御が必要になってきます。また、垂直発射方式では機体の支持方法が問題になってきます。イプシロンロケットでは1段目底部のリングを油圧シリンダでクランプする方式を採用しています。この油圧シリンダでのクランプは地震による機体転倒に耐えるために採用されました。(クランプは発射数分前に解除されます。)

 傾斜ランチャー方式は機体をランチャーに吊り下げるような形で傾斜させて発射します。比較的小規模なロケットで多く見られる方式です。(ミューロケットの規模を傾斜ランチャーで発射していたのは結構めずらしい事例ではないかと思います。)


<各方式の比較>

 さて、各方式を概観したところで、どの方式が串本S1ロケットに適しているか検討したいと思います。

 串本S1ロケットのサイズであれば、どちらの方式がイニシャルコストとオペレーションコストの合計で有利になるでしょうか。オペレーションコストについては設備の耐用年数を10年とし、平均で年15回のローンチに使用するとして、おおまかな試算をして比較してみましょう。ペイロードの音響振動の面から発射方式は傾斜ランチャー方式ではなく垂直発射方式とします。また、移動整備棟の場合は水平整備ではなく垂直整備のみとし、比較は次の3方式とします。

  A.水平整備・移動発射台

  B.垂直整備・移動整備棟

  C.垂直整備・移動発射台

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脱線したままですが、今回はここまでになります。
続きは来月になると思います。

※今回は株式会社コスモテック・技師長 長尾隆治氏のコラムの引き写しみたいなものなので、本家も読んだいただいたほうがいいかもしれません。面白いです。
 http://www.cosmotec-hp.jp/column/

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2019年08月15日

フェアリング空調の検討(その5)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

フェアリング空調系統に必要な能力推定と具体的な機器選定を続けます。


<センサ/伝送器類の機器選定>

 要求として送風量が出ているので空気の流量を測定し制御する必要があります。気体用の流量計にはいくつか種類がありますが、今回のような流量・圧力・温度の条件下で使いやすいのは熱式質量流量計(マスフローメーター)か渦式流量計か超音波流量計でしょう。価格的に安価なのはマスフローメーターか渦式流量計です。筆者は渦式流量計に慣れていますので、今回はこちらを採用します。マスフローメーターならアズビルのCML型にします。渦式流量計はオーバルのEXデルタ型にします。

 渦式流量計は流路に直交した断面がデルタ型の渦発生体により発生するカルマン渦の周波数が、流速とストローハル数に比例することを応用した流速の計測器です。これに測定管の断面積を積算することで流体の体積流量が得られます。カルマン渦の検出上下限が測定流量上下限となるため、あまり対応可能な流量計測範囲は大きくありませんが、今回のようにほぼ定流量であれば問題ありません。

 さて、気体は圧縮性があるため、体積流量を得ただけでは質量流量はわかりません。今回は質量流量の要求まではありませんが、どのみち流量計出口で圧力と温度は測りますので、それを用いて質量流量の演算も行うようにします。

 圧力の計測は圧力伝送器を使用します。測定の確度が高いほうがよいですが、クリティカルな事項ではないので、定番で入手性のよい長野計器KH15を採用します。温度はシース測温抵抗体を使用して測定します。安定の岡崎製作所R96Nを採用します。もんじゅの事故を思い出しながら、シース長は100mm以下におさえます。保護管付きでもいいかもしれません。

 湿度の要求もあり、湿度の制御もしなければいけません。湿度の測定は絶対湿度と相対湿度の出力ができる、テクネ計測EE33を採用します。絶対湿度と温度から相対湿度を計算して、必要な除湿/加湿量を求めます。最終的にはアンビリカルマスト頂部のEE33で測定した相対湿度が要求値に入っているかどうかになります。

 清浄度の要求もあります。これはサンプリング式のパーティクルカウンタを使用して、インラインで計測します。パーティクルカウンタは本来であればアンビリカルマスト頂部に設置するべきですが、入口側で清浄度が確保できていれば問題ないと判断して、フィルタ後段に設置します。製品は少し高価になりますが、ベックマン・コールター社のMET ONE 6003を採用します。


<バルブ類の機器選定>

 除湿用の熱交換器と加熱用ヒーターはバイパス流路を設けて除湿量/加熱量を微調整できるようにしますので、調節弁が必要になります。定石ならばグローブ弁タイプの調節弁(筆者はアズビルのACT型が大好き)を使いますが、システム圧力が低く流量もそれほど大きくないので、バタフライ弁タイプの調節弁を採用します。安さに定評のある日本バルブコントロールズのTAC063DN901TTF-080-EU型とします。こちらは4-20mAの信号で開度を指示し、また、現状の開度を4-20mAでリターンしてくるスマートポジショナ搭載品とします。

 その他に吸込の開閉が必要になりますので、そちらにはKITZの空動バタフライ弁を使用します。あとは手動のバタフライ弁とボール弁になりますが、このあたりもKITZで統一します。

 調節弁も空動弁も操作用のエアが必要になりますので、小型のコンプレッサーとバッファタンクを準備します。バルブ類の操作頻度はそれほど多くなく、1馬力程度のコンプレッサーで補充は十分間に合います。安価な日立産機システムのベビコンを採用します。バッファタンクは少し大きめの300Lとします。第二種圧力容器検定を受けたものにします。ドレンによる腐食抑制のため、内部エポキシ塗装品を採用しましょう。ドレンの定期排出のための電磁弁と安全弁の設置も忘れてはいけませんね。また、操作エアの圧力監視を行う必要がありますので、こちらも長野計器のKH15を設置します。


<送風機>

 送風機はインバータで運転周波数を変えて、送風量をコントロールします。送風機の羽根車はイナーシャがけっこう大きいので、容量が1まわり大きいインバータを選定したほうが無難でしょう。周波数変化率と電流を制限するパラメータはきちんと設定しておきましょう。インバータは通信操作としますので、三菱電機FR-A820-5.5K-GF-1を採用します。


<チラー>

 RKS1500Fは接点をON/OFFしてやるだけで、特になにかあるわけではありません。設定は本体パネルで行いますが、こちらは5℃固定にしておけばOKでしょう。循環液は工業用水にナイブラインZ-1(エチレングリコール系添加剤)を30%添加したものを使用します。冷却能力が10%ほど低くなりますが、凍結と腐食を防止できます。


<コントローラー>

 さて、コントローラのほうを見ていきましょう。こういった設備機器を制御するコントローラにはいろいろありますが、おそらくイプシロンロケットの地上設備系でも使われているであろう、三菱電機のシーケンサとタッチパネルでコントローラを採用します。(地上系のペーパーに三菱電機のタッチパネルがそのまま出てきていました。)

 インバータと通信したいので、CC-Linkユニットを使用します。あとは調節弁や噴霧用ポンプと4-20mAの信号をやりとりするためのアナログ入出力ユニットが必要になります。

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今月はここまでになりますが、機器選定はまだまだ続きます。
posted by kirikuzudo at 01:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記