2019年07月21日

フェアリング空調の検討(その4)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

ようやくフェアリング空調系統に必要な能力推定と具体的な機器選定にうつります。


<吸込空気の条件とフェアリング空調の条件>

 空調の条件を確認しましょう。前回、4つの吸込空気条件を挙げましたが、条件1と条件3が他の2つを包含していましたので、2件だけにします。

 [吸込空気の条件1]
  温度:−2[degC]
  相対湿度:47[%]
  (乾燥した冬の日)

 [吸込空気の条件2]
  温度:34[degC]
  相対湿度:81[%]
  (真夏日)

 [フェアリング空調の条件]
  温度:20[degC]±5[degC]
  相対湿度:65[%]±5[%]

 まずは各条件で空気中に含まれている水蒸気量を求めます。水蒸気量は飽和水蒸気圧から飽和水蒸気量を求め、それと相対湿度の積から算出します。(近似的な計算です)

 飽和水蒸気圧はワグナー(Wagner)の式で求めます。

 ・ワグナー(Wagner)の式

  e(t) = P(c)・exp{( A・x + B・x^(3/2) + C・x^(3) + D・x^(6) ) / (1 - x) }

   e(t):指定温度における飽和水蒸気圧[hPa]
   P(c):臨界圧力 221200[hPa]
   T(c):臨界温度 647.3[K]
   x:(1 - (t + 273.15))/Tc
   A:-7.76451
   B:1.45838
   C:-2.7758
   D:-1.23303
   t:指定温度[degC]

 上記の式から、それぞれの条件の温度での飽和水蒸気圧は下記になります。

  空調条件   :23.4062[hPa]
  吸込空気条件1: 5.2812[hPa]
  吸込空気条件2:53.2657[hPa]

 次に飽和水蒸気量の式で飽和水蒸気圧から飽和水蒸気量を求めます。

 ・飽和水蒸気量の式

  ρ(w) = ( 216.7・e(t) ) / ( t + 273.15 )

   ρw:飽和水蒸気量[g/m3]
   e(t):指定温度における飽和水蒸気圧[hPa]
   t:指定温度[degC]

 上記の式から、それぞれの条件での飽和水蒸気量は下記になります。

  空調条件   :17.30214[g/m3]
  吸込空気条件1: 4.22068[g/m3]
  吸込空気条件2:37.57994[g/m3]

 次にそれぞれに相対湿度を掛け算することで、その条件で空気中に含まれている水蒸気量を求めます。すると、下記のようになります。

  空調条件   :11.24639[g/m3]
  吸込空気条件1: 1.98372[g/m3]
  吸込空気条件2:30.43975[g/m3]

 最終的に空気中に含まれている水蒸気量を空調条件にあわせなければいけないので、吸込空気条件1では9.26268[g/m3]の加湿が、吸込空気条件2では-19.19335[g/m3]の除湿が必要になります。

 送風量は簡単のため、1分間あたり5[m3]、つまり 5[m3/min] とします。すると、1分間あたりの加湿量あるいは除湿量は次のようになります。

  吸込空気条件1: 46.313378[g/min]
  吸込空気条件2:-95.966775[g/min]


<除湿の方法と機器選定>

 除湿にはいろいろな方法がありますが、空気を目的の水蒸気量が飽和水蒸気量となる露点まで冷却して、余分な水蒸気を水滴として回収してしまう方法が今回の用途には適していると思います。

 目的の水蒸気量は空調条件である11.24639[g/m3]です。飽和水蒸気量がこの11.24639[g/m3]に近い温度は先ほどの飽和水蒸気量の式から12.8[degC]になりますので、この温度まで空気を冷却すれば、除湿ができます。(実際は過飽和するので、もう少し低い温度にするなりしないといけませんが)

 吸込空気条件2の空気温度は34[degC]ですので、これを12.8[degC]まで冷却しなければいけません。温度差21.2[K]で、空気の比熱が1.007[KJ/(kg-K)]、送風量が5[m3/min]で空気の密度が1.236[kg/m3]なので、これを全部掛け算して、必要な冷却量は131.93[kJ/min]=2.2[kW]となります。

 2.2[kW]であればよくある空冷チラーで対応可能な温度です。今回は オリオン機械 RKS1500F を選定しましょう。冷却水温度5[degC]時に2.5[kW]の冷却能力を持っています。

 冷却は熱交換器で空気と冷却水を熱交換して行います。冷却水の流量は市販のポンプで安価に入手できるレンジとして50[L/min]を設定します。熱交換を行った後の冷却水温度は5[degC]から5.63[degC]まで上昇します。

 気体と液体の熱交換に用いる熱交換器はフィン&プレートが定番ですが、空気側をCIP洗浄する可能性を考えて、今回はシェル&チューブとします。材質はステンレスでいきます。

 熱交換器の総括伝熱係数は液体側と気体側のRe数に依存するのでめんどくさい計算が必要になりますが、参考資料でだいたいこのくらいになるという数値がありますので、今回はそれを使用して省略します。気体と液体の熱交換では10〜60[W/(m2-K)]になるとありますので、下側の10[W/(m2-K)]を使います。(水は性能いいほうなので、実際はたぶん30[W/(m2-K)]以上になります)

 熱交換器に必要な伝熱面積は対数平均温度差と総括伝熱係数と必要な冷却量から求めます。対数平均温度差は空気の入口温度と出口温度、冷却水の入口温度と出口温度から、15.62[K]となり、必要な伝熱面積は14.1[m2]となります。

 熱交換器ですが、今回は 大生工業 TCW-366-2-SCS を選定します。ステンレス製のシェル&チューブです。本来は油圧用オイルの水冷用に使うモデルですが、ちょうどよい寸法と形状だったのでこちらにしました。この型式は伝熱面積が3.3[m2]なので、これを5台並べて使用します。(実際、この伝熱面積であればシェル&チューブ専業の熱交換器屋さんに設計を含めて作ってもらったほうが安いです)

 総括伝熱係数をかなり低く見積もってるので熱交換しすぎる場合がありますが、冷却水の流量や温度をおさえてやれば対応できます。

 除湿をするために、空気を12.8[degC]まで冷却したので、これを空調条件の20[degC]まで加熱する必要があります。必要な加熱量は先ほどの空気冷却と同じ計算で、0.75[kW]程度になります。

 加熱用のヒーターは加湿時と冬場の加熱で使用する加熱量を基準に選定することになりますので、ここでは決めません。


<加湿の方法と機器選定>

 加熱した空気中に水をノズル噴霧することで加湿を行います。吸込空気条件1での加湿量は46.313378[g/min]で、噴霧水の流量としては0.046[L/min]となります。噴霧水はスケール付着防止のため、カートリッジ式純水器でイオン交換した純水を使用します。今回は オルガノ G-5 を使用します。加湿用の噴霧ノズルですが、今回は いけうち 1/4M KB 80 09 S303-RW を使用します。噴霧加圧ポンプは流量が少ないので、今回は タクミナ PW60でいきます。

 噴霧した水が空気中に溶解するためには蒸発しなければいけません。蒸発に必要な潜熱を空気から奪うことになるため、空気はあらかじめ加熱しておく必要があります。飽和蒸気表から20[degC]における気化潜熱は2454.3[KJ/kg]です。加湿量は46.31[g/min]=0.0077[kg/sec]なので、必要な加熱量は18.9[kW]になります。

 また、冬場は低い温度で空気が入ってくるため、単純に空調条件まで温度をあげる必要があります。こちらも前の空気冷却と同じ計算で、温度差が22[K]として、必要加熱量は2.28[kW]となります。

 ヒーターの加熱容量として必要になるのは、18.9[kW]+2.28[kW]ですので、少し余裕を見て30[kW]の空気用ヒーターを選定します。今回は 日本ヒーター SAS-330 を選定します。


<清浄度確保の方法と機器選定>

 清浄度を確保するためにHEPAフィルタを使用します。今回は Panasonic P-HG610610V0 としました。(5[m3/min]で使用するには少し大きいですが、圧損を抑えるためです)

 また、射場は海沿いになりますので、吸込口のプレフィルタとして塩害防止フィルタを使用します。今回は Panasonic P-L8610610V0 とします。


<流速と圧損と配管径選定>

 射場の規模から継手部の相当長も見込んだ配管長を100[m]と設定します。5[m3/min]の流量に対して、65A/80A/100A/150Aのそれぞれの流速と圧力損失は下記のようになります。

  65A:21.65[m/s]、8.6[kPa]
  80A:15.40[m/s]、3.7[kPa]
 100A: 9.10[m/s]、0.99[kPa]
 150A: 4.30[m/s]、0.16[kPa]

 空気輸送の場合の経済的流速は10〜20[m/s]で、今回は80Aが適切なサイズですのでこれを選定します。


<送風機の選定>

 圧力損失の積算をここで羅列するのもどうかと思いますので、選定結果だけでいきますと、昭和電機 U2S-370 4.5kW 2Pole 200V を選定しました。5[m3/min]時に11[kPa]の静圧が期待できます。機器の圧力損失と配管圧力損失はあわせても8[kPa]程度ですので、十分な能力だと思います。

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今月はここまでになりますが、機器選定はまだまだ続きます。


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フェアリング空調の検討(その3)

フェアリング空調の検討(その3)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

前回の予告と少しずれますが、今回はフェアリング空調で検討しなければいけない条件を列挙してみたいと思います。


<フェアリング空調の条件>

 フェアリング空調の条件ですが、温度を20℃±5℃、相対湿度を65%±5%として仮定します。

<吸込大気の条件>
 空調は循環方式ではなく、大気を吸い込んでフェアリングのベントポートから吐き出す一方向型となるので、大気の条件を確認する必要があります。

 ここでは以下の4つの大気条件を仮定し、これらのいずれの条件の大気を吸い込んでもフェアリング空調の条件を満たすように空調系統を設計します。

 条件1:乾燥した冬の日、温度−2℃、相対湿度47%
 条件2:雨の降る冬の日、温度−2℃、相対湿度66%
 条件3:真夏日、温度34℃、相対湿度81%
 条件4:梅雨、温度31℃、相対湿度92%

 各条件は気象庁の「過去の気象データ・ダウンロード」より「潮岬」地点での2009年〜2018年のデータをダウンロードし、そこから平均的な条件として抜き出したものになります。条件1と2は最低気温(2011年1月)、月平均相対湿度の最低値(2011年1月)と最高値(2018年12月)から採りました。条件3は最高気温(2013年8月)とその月の月平均相対湿度から、条件4は月平均相対湿度の最高値(2009年7月)とその月の最高気温からそれぞれ採りました。

 ※ http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php


<空調系統に必要なもの>

 上記の吸込大気と空調空気の条件を満たすために、空調系統に必要なものを列挙してみましょう。空調空気の条件は簡単のために、公差範囲を考えず、温度20℃湿度65%を設定します。

 まず、吸込大気中の水分を除去するため、除湿器が必要になります。これには円筒多管式の熱交換機を使用して露点以下の冷却水と熱交換することで結露を促して除湿する方式を採用します。

 フィン&プレート式や多板積層式のほうが体積効率がよいですが、円筒多管式は体積が増えるものの、空気流路に洗浄剤を流すことで配管等をそのままの状態で洗浄が可能であり、圧力損失も低いため、これを選定しました。

 冷却水はタンクからポンプにより供給し、空冷チラーで5℃まで冷却した後に、熱交換機を経由してタンクに戻る循環形式とします。冷却水にはエチレングリコールを添加することで腐敗を抑制します。

 除湿のための冷却水温度は吸込空気の絶対湿度と温度を湿度センサで検出し、これをコントローラーで計算することで決定します。冷却水温度の制御は、空冷チラーをバイパスするラインを設け、空冷チラーを経由した冷却水とバイパスした冷却水の混合比を比例調節弁で調整することで実現します。これにより、5〜10℃の範囲で冷却水温度に対応可能となります。

 除湿後、温度が低下した空気を加熱する必要があります。また、冬には温度の低い外気を20℃まで加熱する必要があります。空気の加熱はインラインのフランジ型シースヒータを使用します。

 空気加熱用のフランジヒータは標準品が多数存在しますので、必要な加熱量に近いものを選定し、後述するフィルタ後段アンビリカルマスト上部の温度センサを入力(PV)として、ヒータ出力のFB制御を行います。制御方式は温度調節器とサイリスタ調整器でのPID方式とします。

 冬場に温度が低い場合は加湿が必要になります。加湿には濾過と純水器を使用して不純物を低減した簡易純水を加圧ポンプと噴霧ノズルで噴霧加湿する加湿器を使用します。加湿量は後述のフィルタ後段アンビリカルマスト上部の湿度センサを入力(PV)とし、ポンプ吐出流量を操作量としたFB制御で決定します。ポンプ吐出流量は流量計とポンプ回転数制御をFB制御して操作します。

 温度と湿度が調整された後、清浄度を満たすためにフィルタリングを行う必要があります。クリーンルームの空調に使用されるHEPAフィルタを複数段設置し、要求される清浄度の空気がフィルタ後段で得られるようにします。空気の清浄度はアンビリカルマスト上部のサンプリング式パーティクルカウンタにより定期的に測定されます。測定頻度は10分に1回程度になります。

 フェアリングにこれらの機器を経由した空気を送るためには機器を接続する配管とダクトが必要になります。アンビリカルマストは22m、また、水平方向には最大で50mと90度ベンドを8回程度の配管・ダクトを想定します。経験式からこれらの圧力損失を計算することができます。

 最後に空気を輸送する送風機が必要となります。除湿用熱交換器、空気加熱ヒータ、噴霧加湿器、複数段HEPAフィルタと圧力損失が大きい機器が直列して配置されているため、吐出静圧が高い送風機を選定する必要があります。

 送風量は前回、約5[m3]と決めましたので、圧力損失の合計をベースに必要な吐出静圧を求め、この吐出静圧と送風量から送風機を選定します。1台で全体に必要な吐出静圧を満たす送風機がない場合は機器の間にもう1台、送風機を追加することで対応します。

 空調系統に必要なものを列挙したので、これらをつなげた図を作りましょう。一般的にこれを空調系統図あるいは系統図などと呼びます。機器選定していく段階でこれは変わる可能性があるので、これはとりあえずのものです。

 [フェアリング空調系統図]


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配管・ダクト・送風機の選定、続きます。
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2019年07月20日

フェアリング空調の検討(その2)

フェアリング空調がどういうものか理解するため、串本町のスペースワン社のロケットを題材にフェアリング空調の検討をしてみました。

前回、「配管・ダクト・送風機あたりの選定をする」ようなことを予告していましたが、その前段階検討の一つとして、今回はアンビリカルマストの高さとアンビリカル空調ホースの長さの検討をしていこうと思います。

※固体ロケットではロケット組立棟からの出し入れが比較的容易なため、避雷鉄塔の設置はなしとします。

※ あいもかわらずあてずっぽうの数字ばかりなので、そのへんは生温かくスルーしてください。どちらかといえば検討の流れみたいなものを見る感じでお願いします。


<アンビリカルマストの目的>

 アンビリカルマストはロケットの地上待機期間において、フェアリング空調ダクトと電気系/通信系アンビリカルケーブルをフェアリング近傍に接続する際に、支えとなる構造物です。(フェアリング以外の場所にアンビリカルケーブルやダクト/ホース類がある機体もあります。)

 また、ロケットの発射直前にロケット周辺からダクト/ケーブル類を遠ざけるための機構もアンビリカルマストに含まれます。


<パッドドリフト量の確認>

 スペースワン社のロケットがどのような発射形態を取るかはまだ判明していませんが、ここでは移動発射台からの垂直発射方式と仮定して話を進めます。

 射座周辺は無風状態が理想ですが、串本射場のように海岸の上50[m]の台地に射座があり、さらに南南東向きの太平洋岸であることを考えると、年間を通して無風であることは考えにくい状況です。また、スペースワン社は年間20機のローンチを行うとしていますので、2週間に1回は発射の機会があることになります。そのため、多少の強風は許容できる設計にしなければなりません。

 ここでは風速15[m/s]でロケットからアンビリカルマストへ風が吹き付けている状況でのパッドドリフト量を簡易的に確認してみます。

 ロケット機体は直径1.4[m]、長さ18[m]の円柱として近似し、この円柱に風が吹き付けて抗力が発生し、アンビリカルマスト方向に加速度が発生する状況を想定します。円柱の抗力係数は1.2と仮置きします。(抗力係数は本来、レイノルズ数を考慮して仮置きすべきですがここでは省略します)

 大気密度:ρ[kg/m3]
 流速:V[m/s]
 投影面積:S[m2]
 抗力係数:Cd

 抗力の式

  D = 0.5・ρ・V^2・S・Cd

 大気密度ρ=1.293[kg/m3]、投影面積S=1.4 x 18=25.2[m2]、流速=15[m/s]として、発生する抗力は4399[N]になります。

 スペースワン社の発表では機体全備質量m=23,000[kg]となっており、発射直後の推進剤質量の減少は無視するとして、水平方向の加速度は下記となります。

  a(HL) = D/m = 4,399 / 23,000 = 0.19[m/s2]

 一方、垂直方向の加速度についてですが、ロケット1段目の推力は発表されていないため憶測するしかありません。ここではイプシロンロケットの1段目の発射時加速度を参照して使用します。

 イプシロンロケットは形態によりますが、機体全備質量m=91,000[kg]、1段目推力F=2,200[kN]とすると、垂直方向の加速度は下記となります。

  a(VT) = (m/F)-g = ( 2,200 / 91,000 ) - 9.8 = 15.16[m/s2]

 アンビリカルマストの高さはこれから検討する数字になりますが、スペースワン社の発表では機体全長が18[m]となっているため、これに2割ほど高さを加えて仮に22[m]とします。

 さらにここにドリフトに対するマージンとして10[m]を加えて、32[m]になった際の想定ドリフト量をアンビリカルマストおよび付属装置の安全限界として設定します。

 ロケットが32[m]まで上昇するのに必要な時間は垂直方向の加速度から、

  t = sqrt(2h/a(VT)) = 2.05[sec]

 となります。この時間に風速15[m/s]の風による抗力で機体がドリフトする量は水平方向の加速度から、

  x = 0.5・a(HL)・t^2 = 0.194[m] = 194[mm]

 となります。加速度の大きい固体ロケットで機体直径も細いため、風によるドリフト量はかなり小さくなります。

 機体推力の偏向によるドリフトについてはここでは検討しませんが、それらを考慮しても、発射時の機体外径から800[mm]をアンビリカルマストおよび付属装置の安全限界とすればよいかと思います。


<アンビリカルマストの高さ>

 アンビリカルマストの高さですが、先ほど仮置きした長さ、22[m]で検討を進めたいと思います。他の要素を検討していると変更が出るかもしれませんが、検討のマージンがあるので吸収できますし、マージンからはみ出すようであれば再検討すればよいです。

 アンビリカルマストの高さが仮決めできたので、これを元に、配管長も22[m]とし、圧力損失計算に必要な継手数を、エルボ6点、ティー4点、バタフライ弁4点としてこちらも仮置きします。


<アンビリカルホースの長さ>

 アンビリカルホース離脱をランヤード方式とするかスイングアーム方式とするかで変わってきますが、機体外径から800[mm]をアンビリカルマストと付属装置の安全限界としたので、伸縮動作を考え、その倍の1600[mm]をアンビリカルマストと機体外径の距離として設定します。これにより、アンビリカルホースの長さを1800[mm]程度とします。


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先月の送風量の検討に続いて、今月はアンビリカルマスト関連の配管長とホース長を検討しました。

来月は予定通り配管・ダクト・送風機あたりの選定について触れたいと思います。


posted by kirikuzudo at 19:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記

2019年07月07日

手書き製図の実習とCADの時代

※機械系の話です。基板CADや土木建築CAD/BIMやCAE/CAMの話はしていません。

<手書き製図の実習>

 学生さんや若い技術者さんがTwitterで「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」というようなことをTweetしてたりするのをたまに見かけます。

 いまどきCAD使わないなんて、というのは、たしかになあ、という気持ちもあります。

 一方で、一度手書きをやってると違うよ、という同年代以上の方の意見にも、身体的動作としての筆記で図面を描くという体験には意味があるかもしれない、という気持ちにもなります。


<自分が学生だった頃>

 1997年から2002年まで高専機械科で学生をしていたので、3D-CADの普及初期にかぶっていますが、工場実習でマイナーな2D-CAD+等高線CAMを12時間ちょい触ったぐらいで、在学中は3D-CADを使ったことはありませんでした。ちょっと特殊なのは小学生のときにMS-DOS上で動くコマンドベース2D-CADを実家の工場で触らせてもらったことがあるくらいでしょうか。

 つまり学生時代、設計と製図はすべて紙の上でやっていました。A2のケント紙をひとまわり大きいサイズの製図板の上にマスキングテープで固定して、T定規と三角定規で平行線や補助線を引いていき、コンパスを使って長さを出していきます。

 製図をしながら、「なんでCADじゃないんや」というのは当時の僕も思っていました。


<自分が仕事で使っているCAD>

 高専を出て就職してから7年間はネットワークSEをやっていたのでその間はCADなんてまったく使いませんでした。CADを使い始めたのは実家に戻って家業の手伝いはじめてからです。

 家業の事務所では「EASY DRAW」という2D-CADソフトを使っていたのですが、いまひとつ馴染めなかったので、自腹で「頭脳RAPID」という2D-CADソフトを購入しました。しばらくしてから事務所のCADは3ライセンスともすべて「AutoCAD LT」に入れ替えましたが、自分はいまも手に馴染んだ「頭脳RAPID」を使っています。

 *EASY DRAW https://www.andor.co.jp/products/easydraw/price.html
 *頭脳RAPID https://www.photron.co.jp/products/2d-cad/rapid19/
 *AutoCAD LT https://www.autodesk.co.jp/products/autocad-lt/overview

 とはいうものの、いまどき3Dぐらい使えないとね、という気持ちもあるにはあって、Inventor Professionalのサブスクリプションも契約しています。とはいえ、仕事に使えるレベルにはまだなっていないのですが。


<なんのために図面を作るのか>

 なんのために図面を作るのか、というと、

  「ユーザーや顧客に承認を得るため(営業的)」

  「製作するものが物理的・論理的な整合性を持っているか客観的に確認するため(品質管理的)」

  「組立や部品加工で作業する人に何をしたらいいかを伝えるため(製造管理的)」

  「設計の成果物として納品して対価を得るため(ふたたび営業的)」

 の大きく4つに分かれると自分は考えています。

 実際につくる図面だと、自分の場合、下記を2D-CAD(「頭脳RAPID」)で書いています。

 1.ユーザーや顧客から設計の承認を得るための納入仕様図、系統図、構成図

 2.構造を作業者が組み立てるための組立図

 3.部品を製作するための部品図

 4.制御盤を作るための電気回路図、盤組立図

 5.制御盤と制御機器を電気的に接続するための配線図

 図面というのは数日後の自分を含めた第三者とのコミュニケーションツールなので、あとで読んで伝わればどうやって書いてもいいという話もあったりします。

 そういう視点とコンピュータ上に製図板を再現している2D?CADというのは、とても相性がよく、「頭脳RAPID」を愛用している自分も当然そういう視点が強いのだろうな、と自覚はしています。
 (「頭脳RAPID」はドラフター的な操作がすごく馴染むのです)


<2D-CADの限界と設計援護ツールとしての3D-CAD>

 さて、そうはいうものの、製作するものの規模(というか構成要素数)が大きくなると、整合性の確認という点では2D-CADの出力する2D図面は第N角に投影された線の集合でしかないので、怪しくなってきます。3D-CAD(CATIA、Solidworks、Inventorあたり)であれば、要素間の関係がアセンブリ空間上で厳密に定義できますから、物理的な整合性の確認にはもってこいです。先日も2D-CADで書いた図面で作って配管と構造物の干渉をやらかしましたが、こういうのは3D-CADであればアセンブリ時に干渉チェックですぐに気がつくことができます。

 最近の3D-CADパッケージには簡易的な構造FEA機能(Inventorのスイート製品にはNastran簡易版がついてくるようになりました)が含まれていたりしますので、強度や剛性の確認も(どこまで厳密かはさておいて)簡単にできますし、流行りのジェネレーティブデザインなどにも対応していたりします。

 2D-CADは「コンピュータ支援ドラフター」ですが、3D-CADは、まだ進歩の途上ではありますが、「コンピュータ支援設計機」ということが言えると思います。


<アウトプットとして求められるもの>

 本邦限定の話ですが、現在は過渡期なので、図面を承認する立場の人で3Dモデルでの承認に慣れている人や組織はまだ全体の半分にも満たないのではないかと思います。そのため、アウトプットとしては2Dの図面を出力できなければいけません。しかし、それさえできればなんでもいいとも言えます。

 部品を製造する側も過渡期で、低チャージの加工を請け負う人たちはPC操作の能力がないことが多く、やりとりもFAXと電話ベースだったりしますが、一方でPCを使い、5軸加工機と専用CAMをそろえて単価をあげていく加工請負の人たちもいます。自分の組織の仕入先にどちらが多いのか、ということに左右されますが、2D図面を出せればたいていはなんとかなります。

 つまり、まだまだアウトプットとして求められるのは2D図面が多いのです。しかし、アウトプットがプロセスを完全にしばるわけではありません。


<手書きは本質ではない>

 はじめに戻ります。さて、「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」という、かつての自分やいまを生きる学生さんの発言に対して、自分はどう答えるべきでしょうか。製図板やドラフターを使った手書き製図、ドラフター的な2D-CAD、設計支援機能のある3D-CAD、どれを設計製図の実習に使ったらいいのでしょうか。

 自分の経験ベースで恐縮ですが、製図板やドラフターの苦労の大半は「寸法どおりにきれいな線を引く」というところに集約されますので、自分を振り返ってみても、学生のときに安い2D-CADとA2プロッターがあったら、そっちで課題をやっていたと思います。また、学習効果としても製図板とドラフター的な2D-CADに大差はないのではないかと思います。

 (一応、「専用ペンシルで線を引くことで身体的に図面を描いて得られる何か」というのもあったりするのかもしれない、という危惧はちょっとしていたりします。しかし、この危惧というのは自分の苦労した経験が無駄ではなかったと考えたい気持ちから出てはいないか、というところもあるので、ここでは考えないようにします。)

 以上より、「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」という話には大いに頷けるところがあって、ライセンス費用やPC台数やソフト選定の問題がクリアできるなら2D-CADで製図できるようにできたらいいのではないかと思います。

 2D-CADを使うことで、ケント紙と格闘する時間を省略でき、より要素数の多い設計とその製図を行うほうが技術者の養成という点ではいくらか合理的なのではないかと考えます。(ほんと、綺麗に消しゴムかけるのめんどかった)

 ただし、2D-CADはUIがソフトウェアによって大きく異なり、学校での実習という少ない時間では操作技能の習得に終始してしまい、また、違うソフトウェアに触れたときに「学生時代に触っていた物と違う」という心理的障壁を築いてしまうという面も忘れないようにしたほうがいいかとは思います。その点で、手書き製図のUIは究極的にはペンシルと定規と紙に集約されるので、ツール的には最も汎用的であるとは言えます。


<2D-CAD or 3D-CAD>

 話を戻します。では、2D-CADと3D-CAD、どちらで設計製図の実習をしたらよいのでしょうか。 

 3D-CADといきたいところですが、残念ながら、本邦において、ものをつくるプロセスから2D図面が完全に排除できていない以上、2D図面を見て立体的な構造をそこから把握できる能力がなければいけません。

 現状では皮肉なことに、3D-CADで設計だけを業務とする技術者は(結果を自分が知っているので)この能力があまり必要ないのですが、企画と承認をする立場になったり、組立を指揮する立場になると2D図面とにらめっこすることが仕事になります。そして、その能力を3D-CADを使用するだけですべての学生さんが習得できるかどうかという点に、自分は懐疑的です。

 2D-CADあるいは手書きでもいいですが、2D図面を自分で描くということを繰り返さないと自分のような凡人が「2D図面を見て立体的な構造をそこから把握できる能力」を身につけるのは難しいと思います。そして、そういった「イケてないけどやっておくとあとで便利なこと」を半ば強制する環境を用意するのが学校の重要な要素であると思います。

 これは、3D-CADを触るな、という話ではありません。3D-CADは学生さんであれば学生ライセンスで安く(といっても一万円は学生さんには安くないかもしれませんが)契約できますし、Autodesk360は商用利用でなければ学生はフリーということもあるので、自分で勉強することもできます。(A360がCADと言っていいかどうかは議論があるところだとは思います)

(まともなPCを買うお金の問題がでてきますが、)「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってる」とTwitterで言っちゃうくらい意識が高い学生さんはそういう環境を利用して自分を高めていくとよいかと思います。


<で、結局どうなの?>

 「いまどき手書き製図の実習とか自分の通っている学校おわってると思いませんか」という質問に対するいまのところの自分の答えは

  「教育機関の予算や制約が許せば2D-CADでいいと思います」
  「いろいろ制約があって2D-CADが導入できないなら、手書き図面にスケール当てて線の太さや線の長さをチェックして書き直しさせるあまり本質的ではない評価はやめたほうがいいと思います」
  「設計製図は設計書の評価を中心にしたほうがいいと思います」

 というところでしょうか。


<仕様書(設計書)、ちゃんと作ろ?>

 「手書きに綺麗に製図することって設計の本質なの?」という点については、手書きが2D-CADや3D-CADに変わっても同じです。(かつての自分のように)要件定義やモデリングをしないままに複雑な構成で綺麗な3Dモデルを作ってくるエンジニアリング会社の技術者さんをたまに見かけますが、図面やモデルを作り始める前に設計の出来の半分は決まっているという気はします。

 設計のアウトプットの代表は図面かもしれませんが、図面から「なんでここをこの形状/寸法/材質にしたのか」という情報を読み取ることは難しいため、「仕様書(あるいは設計書)」が必要になります。

 「SEは仕様書だけ書いてプログラムを外注してるからダメなんだ」的な話をTwitterでよく目にするほど忌み嫌われている感じのある「仕様書」ですが、構成要素数が大きい機械を作るのにはたくさんの人が絡んでくるので、そのたくさんの人たちに図面がなぜそうなったかを納得させるツールとしても、きちんと伝わるように作られた「仕様書」は必要不可欠だと思います。

 いまのところ、10トン以上の物理的実体をともなう複雑な電気機械的構造物はたくさんの人に適切に動いてもらわなければまともに機能するように作ることはできません。その際に、作ろうとするものの形状/寸法/材質のような物理的な指示だけではなく、それらを指定した背景となる考え方を伝えることはとても大切です。(失敗事例DBを眺めていると「背景となる考え方」が消失した状態で起こる失敗がとても多いことがよくわかります)

 また「仕様書」を作ることで要件定義ができ、自然と要求機能/性能の分析につながります。「仕様書」に付属する構成図を作ることはモデリングにも通じます。

 そして、残念ながら高専や工学部の機械系に来てしまったら、だいたい「仕様書を読んだり書いたりしなければいけない」仕事かそれに近い仕事をすることになります。


<仕様書を作れるようになるために>

 自分は機械科卒の人間なので他の学科の話はよくわかりませんが、「仕様書」を作れるようになるためには工学的な数量感覚を持っておくこと、専門科目の知識を卒業後も参照して目の前の要件に適用できる程度には「将来の役に立たなさそうな」講義をちゃんと受けておくこと、というあたりが大切だと思います。

 あとは普通にレポートが通るレベルの日本語を書ければ大丈夫だと思います。


<余談>

 自分の場合、「仕様書」というものの大切さを実感しはじめたのは32歳を過ぎてからだったりします。それから客先の仕様書を写経することをはじめて、自分で(規模は小さいですが)仕様書を起こせるようになったのは本当に最近のことです。

 仕様書(あるいは設計書)を書くのは、要求に対する自分の考え方をすべて晒す行為になるのでなかなかしんどい仕事ではありますが、慣れれば緊張感のある面白い仕事でもあるとは思います。


posted by kirikuzudo at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記