2016年09月17日

SpaceXの射点爆発事故についての雑感

SpaceXの射点爆発事故の詳細は、鳥嶋真也氏の記事に詳しいので詳細はそちらを読むのがいいと思います。

http://news.mynavi.jp/series/falcon9_anomaly/001/

というわけで雑感。

SpaceXの1/4ぐらいが MATLAB + SIMSCAPE 使えて、加工組立に関してもそれなりの経験がある人員で構成されていると想像しています。
少なくともモデルベース設計ができないと1段を着陸させて再使用しようなんて検討をあの期間で成立させられるとは考えられません。(時間かければExcelやPythonでもできるだろうけど合理的じゃないよね)

なので、そういった人たちが設計と計画しているところで起きた事故というのは、検討の範囲外だった事象が原因となった、ということだと思います。

検討の範囲外の事象があってもたまたまうまくいっている、なんてことは航空宇宙開発現場では現在もふつうに起きていて、そういったものが見つかるたびに検討範囲を広げてそこをカバーするようにしていきます。FARがしょっちゅう更新されるのもそれが理由です。
(技術に詳しくない方は雰囲気をつかむために「メーデー!」シリーズを見るのがいいでしょう)

今回のSpaceXの事故については、資料も何もないので完全に想像ですが、液体酸素充填系(特にアンビリカルポート)に漏洩箇所があり、そこに油脂分がたっぷりあって、小さな爆発が起こり、そこから油脂分がふつうに存在する箇所に液体酸素が大量に漏洩し、中規模な反応が起こり、ケロシンタンクが破損、大爆発、というシナリオがなんとなく尤度が高そうだなあ、という感じです。

液体酸素充填系にコンタミナントが存在したというシナリオや液体酸素タンクベントバルブ異常のシナリオもありますが、それは私としては次点ですね。

さて、この想像が当たらずとも遠からずだった場合、おそらく地上充填系という技術的に軽視されがちなポイントで事故が発生したわけです。

ロケット開発で性能/コスト比に一番ひびくのはエンジン、次に機体、そして装備品というわけで、基本的にロケット本体が偉いという意識があります。おそらく日本でもそういう部分はあるでしょう。次期基幹ロケット開発でエンジン開発予算が全体の半分近くをもっていったのを考えてもそれは正しいことです。

しかし、こうして事故が起きてみると、地上充填系のような性能にはたいして寄与しない必要悪ともいえる部分が「ミッションを完遂する」という機能には大切だったということに気がつかされるわけです。

次に原因がなんらかの形で特定ないしは絞りこめたとしましょう。
対策をしなければいけません。

上記シナリオだったと結論された場合、おそらく日本のスタイルだと、

・液体酸素充填系から漏洩がないように実使用品を個別要素試験
・漏洩検知非常停止機能の付加
・漏洩してもカタストロフにつながらないように漏洩が想定される箇所周辺から液体酸素と反応する物質を除去ならびに機体結合後に除去されていることを目視チェック
・etc
(わりと勢いで並べてるので漏れがあると思います、漏洩だけに)

と対策ということになるのではないでしょうか。
日本の宇宙開発関係者、特に有人(含むHTV)関係の方々はこういう対策でなければ対策ではない、と考えられるでしょう。

そして、そういったものを積み上げていった結果が現在のH-IIA/Bと吉信LSです。

しかしそれでは費用がかかりすぎると財務省に言われる。私としてはH-IIAはあの仕様では格安と言ってもいいんではないか、と思いますし、末端で仕事を請けている方々はわりとギリギリでやってるというのを見聞きしているので、高いと言われましても、と思うのですが、SpaceXのお値段を見せられると、ぐぬぬ、となってしまうわけです。これは欧州でも同じ事情なのでしょう。

逆にそういった積上げをしてしまえばSpaceXのお値段もじりじりとH-IIAに近づいていくわけですし、きっとそうでない対策をしてくることだと思います。

それは日本の宇宙開発関係者からしたら、きっと、それは対策ではない、と考えられるでしょう。

でも、それで、安く93%程度の成功率のロケットが作れて、受注を続けて事業として継続され、ついでにISS補給輸送系として採用されつづけるのなら、いくら「対策ではない」と吠えてもしかたないと思います。

しかし、日本だとそういった積上げをして100%の成功率のロケットを目指さないといけないというのは、H-IIでやらかした当時の若手で、現在の宇宙開発を指揮する立場にある方々の肌感覚なのでしょう。

次に失敗したら予算がつかなくなるかもしれない。
次に失敗したら日本の宇宙開発はここで終わるかもしれない。

そういう重圧があるのだと思います。

結局のところ、ロケットの事故とその対策の実装というのにも社会的背景があるわけで、物理的・工学的に合理的な対処というのは、そういった社会的背景の影響が少ないところでしかできないものなのだろうな、とも思います。

そういった点では、宇宙開発における北朝鮮やインド、中華人民共和国の躍進は強力な政治的指導者が社会的影響を排除しているためにより合理的な対処が可能だという点に理由を求めることもできるんじゃないかな、と思っています。

アメリカでも日本と同じようなプレッシャーはあると思いますが、ポーズとはいえフロンティアを目指してる人間には寛容で、投資家から集めた事業資金をある程度投入している(税金への依存度が比較的低い)、という2点で社会的背景の影響が軽減されている部分はあると思います。

というようなことをSpaceXの射点爆発事故やそれを語る人たちを見ていて思いました。

※そういえば日本人宇宙飛行士でまだ事故で死んだ人っていないですよね


posted by kirikuzudo at 08:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記

2016年09月10日

「液体ロケットエンジンは推力を生み出す化学プラントである」

 というようなことを固体ロケットメーカーであるIHIエアロスペースの技術者が「ロケットまつり」というロフトプラスワンで行われたトークイベントで発言していたと聞いたことがあるが、これは実に正しい認識である。液体ロケットエンジンは推力を生み出す化学プラントである。ロケットはノズルから高速で流体を噴出することで推力を得ている。ノズルがあり、流体を噴出して推力を得ていればそれはロケットであるから、ペットボトルに水と圧縮空気をつめて飛ばすペットボトルロケットも正しくロケットである。なぜロケットエンジンが液体を噴出する流体として使用していないかといえば、比推力が低すぎる、つまり噴出した液体に比して得られる加速の積分値が低すぎるためである。そこで気体を噴出する。だが、気体は液体と比べて密度が低い。運動量保存則から噴出する流体の密度が低い場合は速度をあげてやらないと十分な推力を得られない。どのように速度をあげるか。直感的に気体に高い圧力をかけてやれば勢いよく噴き出しそうな気がする。事実、噴出する大気の約1.9倍までは圧力に比して気体の噴出速度は高くなる。しかし、それを超えるといくら高い圧力をかけても気体の噴出速度はあがらない。音速に達するからだ。音速を超えるにはどうするのか。ここでロケットエンジンの象徴ともいえるノズル(ラバールノズル、De Laval Nozzle)が登場する。ノズルは音速の気体を超音速にまで加速する数少ない機械装置である。こうして気体をノズルから噴出することで現実的な比推力と推力を得ることができる。しかしながら、ノズルはタダで気体を超音速まで加速してくれるわけではない。代償として気体のエンタルピーを消費する。エンタルピーとは単位質量あたりの気体の圧力と温度に蓄えられたエネルギー量のことである。つまり、ノズルは気体が持っている圧力と温度を速度に変換する装置であるとも言える。これは言い換えればノズルから噴出する気体の速度はノズル入口における気体の温度と圧力に依存するということになる。温度と圧力を非常識なオーダーまであげれば噴出する気体の速度は3000[m/sec]以上にもなる。これが世間一般のロケットエンジンである。ではどのように気体の温度と圧力を上げるのか。気体の温度と圧力を上げる方法で最も単純なのは密閉空間で燃焼させ燃焼熱を用いて燃焼生成ガスの圧力と温度を上昇させることである。燃焼は熱を発する酸化反応で、反応生成物が気体であれば都合がよい。人類がたどりついた答えは2つあり、ひとつが固体の燃料と酸化剤を圧力容器内で進行燃焼させる方法で、もうひとつが液体の燃料と酸化剤を圧力容器内に連続注入しつつ燃焼させる方法である。(核分裂反応により生じる熱で気体を加速する話は得意な人に譲る。)さて、ペットボトルロケットからはじめて、ようやく液体ロケットエンジンにたどりついた。まとめてみよう。圧力容器内に燃料と酸化剤を連続注入しつつ燃焼させて生成した燃焼ガスの温度と圧力をノズルにより速度に変換して噴出することで現実的な推力を得る装置。これが液体ロケットエンジンのコアとなる定義である。(異論は認める。)これだけ見れば実にシンプルだ。140字もかかってない。しかし、これを実現するために必要な対応をしていった結果が名古屋市科学館のロビーに展示されている、あのLE-7エンジンなのだ。


というボツ原稿でした。
やっぱり冬コミ委託は無理だね。
文章が書けなくなってる。
posted by kirikuzudo at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記