2012年06月23日

大学生の進路相談をうけて思ったこと

先日、とある理系大学の学生さんから進路の相談をうけました。

僕は高専卒で就職してしまったので就職活動でどのようなことをするのかよくわからないのですが、そのあたりの話を逆に聞いてみたいということもあり、お話させてもらうことにしました。

<やりたいこと、働くこと>
xxをやりたい、だから、この会社に就職したい。ソフトウェア技術の会社ではわりとこれが成立する部分は多いかもしれませんが、僕の見る限りでは、xxを事業としている会社に入っても、なかなか思い通りの部署には配属されず、ってことになることはわりと多いと思います。新卒の場合は特に。

自分自身の経験で言えば、工作機械事業部への配属を希望してたのに、入社試験のプログラマ適性試験結果で強制的に情報システム管理部門に配属決定されていたりしました。
当然、やりたかったことではありません。

しかしながら、やりたいこと、と、働くこと、は同じではないようで、近いところにあったりすると考えています。

やはり1日最低8時間、(勤め先はブラックじゃなかったんで)長ければ11時間、働くことになると、それなりに面白い部分も見つかります。
そこを仕事中に給料もらいながら掘り下げていくというのはなかなかできないことじゃないかな、と思います。
それをある程度まで許してくれた昔の上司と先輩には感謝しています。なかなかそういう許容が難しいことを、今になって知りました。

<そのうえで、どうやって働きたいかということを考える>
働くというのは、真面目に大学にいって、朝から晩まで真面目に勉強しているのと、実は変わらない「日常」です。

その日常をどのようなものにするか。
研究室で資料作ったり実験したりするのがいいのか。お客さんと打ち合わせして、資料を作成して、技術部門と打ち合わせして、仕様書を書くのがいいのか。どの日常を選択するか、というのが、就職に関する重要なんだけど、あまり話題にならないポイントかもしれません。

<朝、起きて、通勤して、会社について、夜、家に戻るまでをイメージできるかどうか>
これがイメージできないとギャップが大きくなるかもしれません。だからインターン制度があるのだと思いますが、働き始めた直後はわりと会社に行ってずっと雑用して帰るような感覚があるかもしれません。

それでも納得できるような「雑用」なのかどうかというところは、3年以上そこで働くときには大きな差になってくると思います。
ここで、興味をひくようなSomethingがあるか、掘り下げられる環境があるか(ブラックだったり、周囲の理解が得られなければアウト)、
というところが明暗を分けてきます。

<将来に希望をもてるかどうか>
やっぱり生活の糧を得る手段な訳ですから、将来性も大事です。
もしその会社が人員削減で若年希望退職者を募集しだしたらどうするか、というところはきちんと考えておきたいですよね。
僕の場合は実家が自営業でそちらに数年後に戻ることを労使共に織り込み済み(なんという懐の大きな会社だったんだろう……)だったので、
当然、働き出した直後からそういったことを考えていたわけですが。

その仕事を続ける中で、資格を取るための基礎が身についたり、他の人がなかなかできない経験をできるというのは、大きいですよね。
もしくは今は業界が小さいけれど、成長が見込まれる、というのは

<コモディティ化こえー>
コモディティ化ということもあります。
いま求人が多い職種・業種は、現在、その求人をかけている会社にはお仕事がたくさんあって、人手が足らないということです。
しかしながらその、お仕事がたくさんある=需要が多い、が一時的なものかどうかはきちんと見ておかなければいけません。
一時的なものであれば需要が減った際に、求人市場には同じ経験をした人がたくさん溢れることになり、
せっかくの経験もコモディティ(市況品)になります。

細かいところは滝本先生 ( @ttakimoto ) の『僕は君たちに武器を配りたい』を読んでもらいたいんだけれど、コモディティ化する経験ってのは必ず存在していて、それを武器にしてしまっていると、お仕事を買えようとするときにととてもつらいことになります。

<お金をもらって働くということ>
企業はビジネスをしているわけですから、(違法ではないけれど)自分が「これはやりたくない」ということも、お仕事としてやってきます。時には自分が専門分野で学んだことを否定されるようなこともあるかもしれません。というか、あります。しょっちゅうです。
それは上司や先輩が不勉強(これが意外と多い!特に機械分野!)なこともあれば、専門分野の視点では理想的ではないけれどビジネスの視点ではその手段しかない、ということもあります。

あと1日あれば最高の設計ができるときでも、その1日ぶんの工数はそのお仕事の利益を考えると捻出できないかもしれません。(まあ、そういうことになる会社は最終的には利益もジリ貧になる傾向があるようですが、それはさておき。)

でも、それがお金をもらって働くという日常だということは覚えておいたほうがいいと思います。

逆にある程度、上のポジションにいくと、会社の仕事の中に、自分が長年、懐に隠し持ってきた研究テーマを混ぜ込むなんてこともできます。
当然、それが会社にとっても自分にとってもプラスになるということが成立条件ですが。

<大学でやってきたこと>
ある専門学科で4年間を過ごしてきたとして、それがどれだけ役に立つか、ということはメジャーな疑問だろうと思いますが、
僕は、これは先ほどの「懐に隠し持ってきた研究テーマ」として考えることができるのではないかと思います。
もちろん、業界によっては進歩が早いことも多いので、懐に隠しているうちに陳腐化しました、ということはあるかと思いますが、
仕事しながらでもそれをフォローアップしていくことができれば、これは有効なネタになります。
ここで、「仕事し流れでも懐に隠し持った研究テーマをフォローアップしていけるかどうか」というのが職場を選ぶ上で重要なポイントになります。
忙しすぎる、とか、最新の研究にアクセスしにくい、とか、そういった環境はよろしくないということになります。

<自分の専門分野のお客さんになる企業を調べてみる>
たとえば金属材料を専門分野としてやっているのなら、金属材料を作って供給する会社ではなく、金属材料を供給してもらって何かを製造する会社や、金属材料を加工する機械を作る会社などに技術や営業技術として入るのは、あとあと金属材料の開発に戻るときにも、かなり強い力になるんじゃなかろうかと思います。
さらには採用側も意図していない「即戦力」になる可能性が意外とあるんですよね。
「え、そうだったの?」という、お隣の分野では結構、知られていない事実、というのは多かったりします。ごにょごにょ。

<お仕事の流れを知らない学生さんは多いかもしれない>

引合=>見積=>受注=>開発/設計=>購買=>製造=>検査=>出荷=>納品=>検収=>入金

という大きな流れを知ったうえで、
その、どこからどこまでの範囲をお仕事にしますか、というのを
知っているかどうかというのは職場を選ぶ上で大きいですし、
それが説明できない人が採用担当しているような場合は、
それがわかる人が出てくるまできちんとお話をすることをおすすめします。

新卒でいきなり人事部に配属されたりすると、これを知らない人が採用担当になったりするんで。。。


<まとめではないけれど>
というわけで、つらつらと書いてきましたが、こういうあれこれは振り返ってみるとありますが、
僕は「んー、ま、悪くなさそうな会社だなー」という勘と「さっさと内定決めて遊びたい」という怠惰で就職先を決めて、
そのわりにはわりと恵まれたポジションと環境を得たので、悩んでもしかたないというところはあります。

「運次第」とまではいいませんが、悩みすぎて「直感」を鈍らせてしまってはなんともなりません。
特に女性は、自分がきちんとした家庭で育ててもらったなあ、と思える場合は、自分の「直感」を信じた方がいいでしょう。
良い職場、良い企業は意外と「きちんとした家庭」と通じているものがありますので。

以上、駄文おわり。
posted by kirikuzudo at 11:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記

2012年06月16日

軌道輸送サービスの国際競争、についての所感・ベータ版


先日Twitterで、フォロワーさんからこのような質問を受けました。

「スペースXのドラゴンが成功したことで民間企業の宇宙産業への幕開けだ!!とみんな喜んでいますがドラゴンのペイはHTVの半分、コストは半分以下、しかも帰ってこれる。これって日本は安易に喜べない、取って代わられてしまいそうな気がします大丈夫でしょうか?」

その場でひととおりの回答をしてみたのですが、しっくりこなかったので、ちょっとここらでまとめも兼ねて、エントリを書いてみようと思います。

まず、質問の中にあった「民間企業の宇宙産業への幕開け」という言葉。
この「民間」という言葉には気をつける必要があると思います。
SpaceX社に対してNASAから資金が出ているところからすると、内実はともかくとして、極端な話をしてしまえば、受発注形態はJAXAが三菱重工業に対して行っているのとかわらない、という考え方もできます。

アメリカではこれまでNASAがロケットの打ち上げを主導してきました。もちろん、製造はユナイテッド・ローンチ・アライアンスがやっていましたが、米国では民間企業が全プロセスを主導してのロケット製造と打ち上げははじめてになります。

日本では長らく三菱重工業が主契約企業としてロケット製造と打ち上げを担当しています。もちろん契約上ではJAXAへの引き渡しが打ち上げ前段階でありますが、打ち上げ運用に関しても三菱重工業と傘下の企業群(コスモテックなどなど)が行ってきました。

「民間企業の宇宙産業への幕開け」というのであれば、既に日本では1980年代から民間企業が宇宙産業を担当してきたのです。
この点を考慮に入れたうえで話をしなければなりません。

おそらくマスメディア上でのキャッチコピーとして
「民間企業の宇宙産業への幕開け」
という言葉が出ていたのだと想像しますが、
短期的に、これは単なる「契約の線引き」の話だと捉えておくとよいと思います。

しかしながら、長期的には、三菱重工業のライバルとなる企業がさらにもう一者現れたという、認識が正しいと思います。

これは裏を返せば、アメリカの宇宙政策が
「あれ?実は日本のやり方のほうがよくね?」
という認識をし、同じスタンスを取ったともいえるのではないか、とも考えられます。
ただし、アメリカの宇宙政策ではSpaceX社以外も発注対象としていくつか存在します。
しかもユナイテッド・ローンチ・アライアンスは現役です。
このあたりはアメリカの層の分厚さを感じますね。

さて。話題が質問にあった
「日本は安易に喜べない、取って代わられてしまいそうな気がする」
になってきましたので、そちらへ移ります。
まずは各ロケットの軌道投入能力を並べてみましょう。

ロケットの軌道投入能力比較表(別ウィンドウ)

現時点でH-llBのライバルはどちらかといえばアリアン5なのではないかと思います。兵站から考えると、種子島からは年間にそう何発も打ち上げられませんし、Hシリーズは大きめのペイロードに特化していく方向かと思います。

ただし、種子島は運送経路に難があるため、
現在より大きい輸送系を射場まで運搬することができません。
よって、ここがHシリーズのネックになると思います。

兵站面から見れば、いまのHシリーズは官需でわりと手一杯なところもあるので、軌道輸送サービスとしての展開は難しいように思います。

私見ですが、緯度によるΔVを考えたとしても、和歌山および北海道の太平洋岸に射場があると、格段に競争力が上がるのではないかと考えています。
緯度が選択できるということは、投入軌道の軌道傾斜角変更に必要な燃料を削減できるというおまけもありますし。

いずれにせよ、まだ軌道輸送系は市場原理ががっつり働くには未成熟なマーケットだと思います。
しかしながら、将来的に不安があるのはおっしゃられるとおりだと思います。きちんと見ていませんが、SpaceXは広報もうまかったみたいですし。
SpaceXに限らず、ローレンジの打ち上げサービスから初めて、次第に現在のH-llBやアリアン5のクラスまで手をのばしてくる展開は充分に考えられます。
それらを前提とすると、現時点では輸送系の需要となる軌道上サービスを考え出し提案できることのほうが、狭い市場の取り合いをするより重要ではないかと思っています。需要を待つのではなく、マーケットを作り上げる、という感覚が必要だと思うのです。

いま不足しているのは「宇宙でしかできないことを我々はワンストップでやりますよ」という垂直統合事業だと思います。
垂直統合が必要なのは、クリステンセン的な言葉で言えば、軌道上サービスはまだ「十分ではない世界」にいるからです。

「宇宙でしかできないこと」をはっきりさせられないと、地上の代替サービスの競合には勝てませんから、これはとても難しい問題です。低重力実験などでも「宇宙は値段高いから実験条件を工夫して落下塔のXsec以内に終わるようにしたよ」というのがライバルになってきます。

無重力指輪交換実験なんてする人もいるくらいですからね。そういえばあれも三菱重工業系のサービスでしたっけ?

話は変わりますが、SpaceXのすごいところは自社開発扱いのコンポーネントが多いことですね。
まず調達リスクと調達コストがかなり抑えられます。次に、問題が起きた際の解決にかかる時間が短くなります。さらにコンポーネントを最終サービスのデザインにあわせてカスタマイズしやすくなります。垂直統合に向けての体制という意味では、SpaceXは三菱重工業の数歩先をいっていると考えてもよいと思います。
posted by kirikuzudo at 06:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記